須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

立ち直れ、ストーブよ!

 2時半起床。以前買っておいた予備電球を探し出し、椅子に上がって電燈取替え。TVでは自民党衆院議員中西一善が未明、強制猥褻で逮捕の報。

 本日はストーブ点検の日なり。昨日夕方からストーブ周りを整理するつもりであったが、連日の外出の疲れで、蒲柳の質の自分は身体が動かなかった。食事もそこそこに、3時過ぎからストーブ隣のカラーボックスの中と上、近辺の床等に積んである本や雑誌を妻と移動。このあたりの本は全部妻の本。女房が胸に抱えてくるカタマリを受け取り、わが仕事場兼食卓の机に積み重ね、載りきらぬ分(がほとんどであるが)を寝室へと運ぶ作業を繰り返し、どうにかカラーボックスを動かせられるようにする。掃除機引っ張り出して玄関、廊下、居間の見える部分にかける。

 もう数時間も経てばストーブがまた復活するのだ。♪火の気のない部屋に目覚め〜金にならない本を売り〜ユメのない毎日を〜愛のない妻と過ごす〜♪春を迎える服もなく〜夏に訪ねる友もなく〜秋の寒さが身に沁みて〜冬にホンネをさらけ出す〜♪今日びすべてが金なのさ〜今日びすべてが金だ〜今日もすべてがむくわれない〜今日ですべてが終わるのさ〜♪きたない本ばかりですが〜ヒマーがあったら買ってみて下さい〜本のついででいいんです〜一度買ってみて下さい〜♪今日でストーブがなおるさ〜今日でストーブがなおる〜今日ですべて温もるさ〜今日ですべてが解決さ〜、などといい加減な歌を歌いながら、20年近く昔の重たい旧式掃除機を片手に持ちつつ、狭苦しく動きづらい空間を移動して歩くというのは、なかなか困難な作業であるが、もうすぐストーブがなおるのだからと、自分は奮闘した。ひと汗もふた汗もかいて、ふうふういっているところへ、予定通り5時過ぎにチャイム鳴り、ストーブ点検員が訪門。
 若い。ずいぶんとまた若いアンちゃんである。前回は年季の入ったベテランの職人といった風貌のオヤジであったのに、あの人はもう退職したのであろうか。両サイドに本の堆積した廊下を導き、ストーブの前まで案内する。今回は前回みたいな小型掃除機を携帯して来ていないが、ストーブ掃除は省略するのであろうか。部品や工具の函も持って来ておらんが、このヤング・マンは大丈夫なのか。ドアの外に置いてきたのか。するとアンちゃんは何か靴下状の布を取り出し、ストーブの背後に顔を潜らせるように体を屈めて何かもぞもぞやっていたが、ほどなくしてスイッチを入れ、ストーブ前に正座して、じっとフロントの覗き窓を見つめ、時々、温風の出を確かめるように手をかざしたりしている。2月10日過ぎからオカシくなり、今では5分と燃えていないのだ、と自分は現在のストーブの症状を訴え、灯油を気化するところの部品を交換しないと駄目なのではないかと想像するのであるが、と言ってみた。と、どうであろう。今回の作業にそれは組み込まれていない案件であるし、自分はそういうことは分からないので、管理人さんに直接言って下さい、と答えたのである。結局、アンちゃんは、他の居室で見つかったという給油ゴムホースのひび割れが発生していはしないかの点検と、これまで剥き出しの裸であった排気管にカバーを取り付けただけで帰って行った。

 早合点であったのである。てっきり点検修理掃除の三点セットをやってくれるのだと思っていたのは、自分の誤解であったのである。案内チラシを見直してみると、なるほど「点検概要:石油暖房機灯油ホース点検他」としか記されていない。この「他」がクセモノで自分は騙された。甘かった。自分に都合のよい夢をみていたのだ。それに考えてみれば、前回のオヤジはSポットという暖房メーカーから、今回のアンチャンはKガスからの派遣なのであって、つまり専門家じゃないわけだから、たいしたことが出来ないのは予想できたのである。他人に期待するとは浅はか、つくづく頓馬な自分であった。 

 仕様がないので、ストーブのフロント・パネルと後ろのファンのネットの螺子をはずして自ら掃除機をかけ、再着火してみる。ほそぼそと火が燃えるのは燃えるのであるが、15分ほどで消えてしまい、うーん、はかない希望も消えたのである。春半ばまで持運び式の方で過ごすことにあらためて覚悟を決め、アンちゃんが帰った後に寝室から再び姿を現し、「すべてが無駄だったわね。今夜から暖かくなるとか言ってたのにさ」とぶつぶつといつまでも不平を言う妻とまた、幾度も往復して本を居間へ手渡しで戻した。そして心も疲労した自分は風呂へ入ったのである。

 夜になり、Easyseekから3点注文。「ベスト・オブ・豊田有恒」昭56年1、ソレルス「ドラマ」昭49年、「EXPO'70 写真集日本万国博」昭45年。すべて妻本。「惜しみなくすべてを奪うわね、キミは」と感心される。
 深夜、今度は洗面所兼脱衣場の天井電燈が切れた。とりあえず枕元の電球をはずして付ける。睡眠薬代わりの本が読めなくなる。