須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

金曜 現在の自分なら若造に・・・

 1時目覚め。二度寝。4時起床。15時現在、晴、3・3℃、湿度56%、今日最高気温5℃。ドーナツ2、ロールパン1、牛乳、カフェオレ、紅茶、冷水。Y目録に受注2、梱包3。

 松坂、ボストンで入団発表。トレーナー、マッサージ師、マネージャーなどの専門スタッフの他に家族の日米往復旅賃(今回だけではなく)や家族につける通訳費用まで球団側が持つという契約らしい。あんなに給料貰うというのにイヤハヤである。それが米メジャー流というものか。改正教育基本法案が衆参両院通過。防衛庁防衛省に格上げ決定だそうだ。

 8時からラジオでテレビ「北海道ひと物語」の後半を。タクシー運転手さんの話。声に聞き覚えがあるなと思ってテレビを付けて見ると、一月前ぐらいにも全国向けの放送「ドキュメンタリー72時間」で取材されていた人だった。今年の初めに本を出して、現在2冊目を準備中だそう。室蘭栄出身の由で親近感あり。

 11時、豚と大根のスープ、鶏即席麺、ナットウ、米飯、麦茶、チョコレート。

 過日、小樽の古本市で買って来た平野謙「藝術と實生活」昭和33・講談社を入力しようと本を開いたところ、後見返しに<すがや>というひらがなのプライス・シールが貼ってあるのを発見。なんだ、ウチ出身の本だったのか。シールは開店時に洋風と和風の二種類制作したのだが、これは和風のもの。我が店ながら、今見てもなかなか味のある素敵なシールではないか。当時影響を受けていた古書店Bさんを見習って開店時に制作したモノだ。デザインは友人Kの弟クン(プロとしてメシを食べていた)が無料でやってくれたのだけれど、印刷所にはけっこうな金額をとられた(現在の自分なら当時の若造スガヤに、そんなことにカネをかけたらダメだ、とアドバイスするのだが)。ところでこの「藝術と實生活」、誰に買って貰ったのかは忘れてしまったが、おそらく87年の3月末、薫風書林とI書店と一緒にK堂庄一氏のクルマに同乗させてもらい、四人で遠征した釧路の市で落札した評論の口に入っていた一冊だと思う。平野謙が何冊か含まれていたから。

 前日に札幌出発、帯広で<春陽堂>さんを覗き、夕方、釧路に到着。炉端焼き発祥の店と云われる有名な炉端の<ろばた>で食事を兼ねて呑んだ(でも、ちょっとだけよ。だって、たしかに美味しいけれど価格体系が観光客目当て。落ち着かないったらありゃしねえ。B級C級グルメ嗜好の平民がゆっくり、のびのび、たっぷり呑める店ではありまへん。これは札幌の<五醍>もまた然り)。一泊した翌日、セリ当日は小雨模様。市会は若松会館というさほど大きくはない公共施設の二階で行われた。自分は他にも何点か買ったけれど、横瀬夜雨の「花守日記」カバー付(明治の本どす)、これは損した。ン万円で落札した本だったが、何年経っても嫁ぎ先が決まらず、売れず仕舞で、あげくにセリに戻しても1万チョイぐらいにしかならなかった。カバー付美本であれば当時売価十数万から二十万ぐらいの本であったが、自分が入手した本はカバー付でも裏打ち補修したモノで、これがネックだった。それに横瀬夜雨自身が詩史においても地味な人で、古書コレクターにもあまり人気のある詩人ではないのだから(と、現在の自分なら当時の青二才スガヤにアドバイスできるのだが)、新米が手を出すべき本ではなかったのだ。

 その日は、入札目録にも写真が掲載されていた井伏鱒二「多甚古村」函帯付の初版本(昭和戦前の本どす)が最終台に出ていた。これは本州方面からの出品という噂で、この市の呼び物の一つであった。A書店さんの話によると、帯が珍しいのだが、この帯はヘンにキレイ過ぎて、どうも怪しくて入札できない、下手すりゃ十万金(ガネ)を損するから、とのことであった。終わってみれば件の本は売買不成立、業者用語のボーであったが、その後もその「多甚古村」出品者の古本屋さんが北海道の市に出品して来る文学書は妙にキレイな本が多かったのであった。

塚本邦雄「風神放歌ー加藤かけいの宇宙」を入力中ぱらぱら。「寒がらす飼ひて女中を晝犯す」。いやあ、ぶっ飛んでるなあ。7点UP。受注1、笠井潔「バイバイ・エンジェル」。

 3時、カンビール1、笹かまぼこ、煮込み豆腐、大根浅漬け。5時就床。異形コレクション「魔地図」よりY推奨の大槻ケンヂ短篇「モモの愛が綿いっぱい」を読む。精神病の男の話かと思いながら読んでいると途中からSFに。『ムー』を愛読する元ヤクザ、パンチパーマのゲームセンター主人がよかった。