須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

水曜 収まるべきところに収まる

 7時20分起床。くもり。うどん、水、カフェオレ。

 8時20分、家を出、地下鉄で大通駅、9時前、頓宮神社着。札幌古書組合月例交換会。5分前には到着したが、自分が最後、事業部員は全員揃っていた。 今日は荷が多いので8時半から招集がかかっていた人もいる由だ。K堂の庄一氏も出品がダンボール箱に十数ヶあるため、すでに来ている。小樽の二分の一ブックスの好青年の顔をしばらくぶりに見て安心。4月から姿を見せなくなっていたので、どうしたかな、と少し心配していたのだ。一昨日、<Rプラザ>古本市に来場した大西君の奥さんも来ていて、お茶の支度他やってくれている。ダンナが事業部員なのでセリに随行、手伝ってくれているのだが、これはまったくのボランティア。同じ和歌山県の女性でもカレーに毒を入れたと推測されている人もいれば、かように可憐、気だての良い人もいるのであった。

 昨年店仕舞した小樽のHさんの口が大量にあり、事業部員がダンボール箱から取り出した古い黒っぽい本を2〜30冊重ねて紐で縛り、5段、6段に重ねて会議机の上に並べてゆく。この口は昨年秋の大市から毎月のようにずっと出ているが、まだあったのか、と感心してしまう。会場だけでは収まらなくなり、K堂さんの口は、黒っぽいものは室内に、白っぽいセコハンは廊下の壁際に10ヶ所ほど山にして積む。自分はこれを手伝う。

 お茶の後、先月金券分41、090円を、ええい、どうだ、持ってけ泥棒、とばかりに叩き付けて払い(というのはもちろん嘘なのだが、そんなエラそうな振る舞いは金輪際できない身分なのだが)、10時から入札タイム。旭川根室からも何人もいらしていて、今日は人多し。小樽の口、戦前の戦記関係、戦後の児童ものなどなかなかオモシロイものがあるのだが、何本もの山になっている口は置場がないので入札意欲湧かず。K堂さんの黒っぽいモノも二口出ており、古い文学書にけっこうオモシロイものがあるのだが、これも量が多すぎるので遠慮。最終台に三島由紀夫美徳のよろめき」の限定本が出ているが、これは3月のセリに出た同じ本よりもずっと奇麗な美本なり。結局、第1回の台に出ている、篠原梵や阿部完市の随筆集、島田青峰の「俳句入門」とかが含まれているけれど、長年店に晒されてましたが売れませんでしたそんなボクラでもよかったら入札してやって下さいスミマセ〜ン、という感じの疲労感を漂わせている俳句関係20冊と、第2回開札の作家追悼特集などの新しめの文芸誌一括の二点に入札。

 11時から開札。今日は事業部長が発声を半分やってくれるので、自分は発声の他、開札、それに薫風書林と札改めをやる。発声の時、前月に引き続き笑いが止らなくなりそうになる。決してフザケテやっている訳ではない(と思う)のだが、薫風書林が隣にいると、どうした訳か不可抗力的な笑いの発作が襲ってくるのだ。
 12時終了。自分が入札したモノでは、しょぼっ、と疲れた冴えない俳句本のみ落ちていた。文芸誌の口は、長期間に渡って来ないなと思っていると、急にセリに出現しては思いがけぬ札を入れるARさんに落ちていた。この人さえ今日来なければ自分が無事落札していたのに。まあ、いいさ、ははは、と余裕の笑い見せながら、蔭で悔し紛れに「余計なことしやがってぇ」と小さく吠えてみる。

 K堂さん出品の口に函ナシながら藤田嗣治「地を泳ぐ」が含まれており、美術本専門を謳うA本屋さんが買えばいいのにと秘かに思っていたが小樽のYさんに落ちていた。また◯◯堂さんが落札した小樽の店仕舞の山に東郷青兒「カルバドスの唇」が入っており、取り出して見てみると、函は痛んでいるが献呈サインが入っていたりして、これもA本屋さんが落とせば好かったのに、と他人事ながら思ってしまうのだった。かくして、あらゆる善本珍本は収まるべきところに落ち着くのである。

 後片付け、掃除済ませて、1時解散。帰り際、人だかりができており、何かと見れば、昨年入った新人囲んで、アマゾン、ヤフーで商売するための携帯電話操作法についてのにわか講習会。嘆かわしく、そして情けなし。情けねえじゃねえかよ。度胸と感に賭ける古本屋のプライドは、いってえ、何処に消えちまったんだい。

 ははは、以上は実のところ、携帯電話は持ってないわ、カードは所持してないわでアマゾンとは一生無縁な古本屋の遠吠えなのよ。うくくくっ・・・う〜・・・う〜・・・うお〜〜〜〜〜〜〜ん、くそったれが!

 B堂の恊治君が送ってくれるというので同乗。<Rプラザ>に寄り、取り置きしていた本の会計を大急ぎで済ます。7冊2050円。店番は小樽のイワタさん。クルマに戻って西岡(?)のハンバーグ・レストラン「びっくりドンキー」へ。クルマ降りると微雨。ヒレカツ定食とビール、食後にコーヒー。恊治君に御馳走になる。先月前半に出席した東京の南部大市の話、3月後半に行ったオホーツク沿岸のM市での宅買いの話を聞く。朝の8時半から夜の8時半まで三日連続で作業して、二階と屋根裏部屋みたいなところから本を紐で括って降ろしては4トン車に積み込んだモノを、夜中に札幌まで親父さんの運転で運んで来たそうだ。ご自分がアルバイトして家計を維持しているのを尻目に、亡くなった旦那が給料をつぎ込み収集して遺した本が憎たらしく、奥様が「いくらでもいいから持って行って」と持て余している蔵書を戴くという、古本屋にとっては至高の条件の羨ましい仕入れなのであったが、聞けば、手間賃引いて「僕が◯十万でいいって云うのに、親父ったら◯十万も払ったんですよ」とそれなりの金額を払って来たらしいのだった。だが、札幌に無事着いたはいいが、翌日から恊治君はギックリ腰で寝込むこと十日に及び、このまま一生立ち直れないかと思ったほどであったそうな。
 3時半過ぎ帰宅。15時現在、雨、21・6℃。受注2件。愛知県のお客さんから学習雑誌附録・横溝正史「姿なき怪人」、それと東京の出版社さんから菊池幽芳の歌集。
 9時から入浴。「ニュース23」。国保料一年間未納の者からは保険証を取り上げるよう国から各市町村にオフレが出ている由で、ヤバイなあと不安になる。焼鳥、厚揚げ焼き、イモフライ、蒸しモヤシとワカメのサラダ、日本酒3合半で第三食。「プロフェッショナル仕事の流儀」再放送。羽生善治の特集なので見る。自分、将棋は分からぬのであるが、対局時でも徒歩で移動中の時でも、その表情を見ているだけで面白く見飽きぬ。午前7時就寝。