須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

日曜 定山渓の夜は更けゆく

 12時15分起床。12時現在、晴、8・1℃、湿度54%、予想最高気温10℃。鶏即席麺、ミニあんパン1、蜜柑2、カフェオレ、冷水。受注1「ケストナー終戦日記 -1945年のベルリン最後の日」。
 2時10分過ぎ、文教堂恊治君に拾ってもらい、定山渓へ出発。藤野<COWBOY>で恊治君が酒を調達。ウィスキー「マクレランズ・ハイランド」1本、赤ワイン4本。恊治君の提案で藤野を少し過ぎた辺りにあるパキスタン・カレーの店に寄り(店名失念、インド語なのか、変った名前)骨付チキン・カレー。サラダ、チャイ付で780円なり。三十代半ばと思しき店主はインドで長期間たゆとうて来た感じの風貌。以前にも来店している恊治君の説明から、どんなオソロシゲなものが出てくるのかと期待半分の覚悟をしていたが、出されたそれは札幌で流行のいわゆるスープカレーと対極的なモノ。さらさらでも、とろとろでもなく、ぱさぱさ、という食感。ヘンに辛くなく美味しい。年上なのにまた御馳走なる。他に60代夫婦、後からティーンエイジャー4人と、けっこうお客は来ているようだった。

 4時前、定山渓温泉<ホテル・ミリオーネ>到着。フロントで部屋割りのメモを見ると、413号室。行ってみると◯◯◯さんが部屋に一人ぽつねんと座っているので、あれ、と思う。カウンターで見た部屋割りではメンバーはK堂庄一氏、N堂秀了君、恊治君と須雅屋の四人の筈。酒を飲むとどうなるかを何度か見ており、世話が大変そうなので所定の部屋に移動願う。その部屋ではすでに事業部長が持ち込んだ酒で飲み会が行われていたので◯◯◯さんにとっても好都合であったろう。何年かぶりに見たが、めっきり老けられていた。一服して4時半、三階大浴場へ。暗くなりつつある山並みを眺めながらの露天風呂心地よし。N書店さんご推奨の<ふる川>のネオンも見える。あがってから三階を調査。カラオケは1時間飲み放題歌い放題で3千円。これが定山渓相場らしい。部屋へ戻ると秀了君がテレビの前で寛いでいる。大相撲の表彰式を見ながら、相撲はもうモンゴルに国技として渡せばいいんだ、と意見を開陳される。
 6時半から二階大雪の間で宴会。札幌組合から11店、13人、小樽から夢書房の金森さん、と計14人のわりかし少人数の慰安会となった。理事長、専務理事、事業部長の話では全国的な市場(業者の)の低迷の中、札幌組合は意欲的な人が多く、よく健闘している方であるそうだ。謎の女性二人が宴会開始直後登場。コンパニオンは頼んでない筈なのになあ、と不思議に思っていると、何処か近くの店から来たのだと云う。うち、京極夏彦を愛読しているというオネエサンが「わたしの口から云うのもナンですが、まとまりのない宴会ですね」とコメント。「いや、宴会ってこんなもんじゃないの」と専務理事。確かになかなか鋭い観察ではあるが、でも「まとまりのある宴会」ってどういうの?料理はよくあるパターンのもの。日本酒は控え、ビールの後は恊治君のウィスキーで水割り。天麩羅に添えられたレモンまで加熱されているのを恊治君が発見。昼間作り置きしていたものをチンして運んで来たのがミエミエ。8時半終了。オネエサン二人の誘導で二次会会場、一階<グリフィン>へ。彼女たちはこちらの従業員さんたちであり、宴会前に幹事と話がついていたのであった。◯◯◯さんは一次会で沈没、部屋へ送られる。今夜は札幌ドームでエリック・クラプトンのコンサートをやっている筈だが、定山渓ではスガのミニ・ライブ。ジャガーズCCRストーンズ、なぞ5、6曲歌う。「いやあ。盛り上げてくれて、気遣ってもらってワルイなあ」と事業部長に美しき誤解をされる。たんに歌いたいから歌っているだけなのになあ。が、決してマイク独占していた訳でなく、恊治君とヒサさんが各5、6曲、事業部長、花島さんが各3、4曲、専務理事と吉成君は各一曲、そして理事長は御得意の石原裕次郎を。広い店内に客は結局最後まで古本組合御一行様のみ。オレたちが来なければどうなっていたんだ?、キミたちは。とオネエサンに向いオジさんたちが威張る。
 我らの413号室に一人除いて全員集合、三次会。恊治君の酒類の他に、事業部長持参のワインとエビス・カンビールと焼酎。椅子に座って庄一氏、ケルンさんと、懐旧談。二十年前、独立開店した夏、函館西武古本市へ遠征した話。その頃、反町茂雄「一古書肆の思い出」に影響を受けていたスガは全国を飛び回り本を集めることに深いアコガレを抱いていた。ただ、その後も赴く場所は北海道を出ないまま今日に至っているのだが。で、その当日開店前に並んだところ(と云っても10人ぐらいだが)、神田の◯◯書店が朝イチの飛行機で「鷹は舞いおりた」よろしく襲来、函館の地に出現していたのだった。「今日は明治古典会もそれほど出ないみたいだからね」(金曜日であった)とおっしゃる◯◯書店さんに名刺渡して挨拶をしながらスガは、大丈夫、フットワークでは勝てる筈だ、と内的独白していたのであるが、いざ開店時間になるとエスカレーターを駆け上がるその後姿に驚きながら付いて行き、会場で『アーサー・マッケン作品集成』六冊揃い、澁澤龍彦『異端の肖像』限定版なぞを、ぱっ、ぱっ、ぱっ、と次々手にして行くその華麗なセドリダンスを眺めるばかりで惨敗に終わったこと。その折、スガは札幌から函館まで◯◯◯◯◯さんと深夜バスに乗って行ったのだけれど、帰りはご好意に甘えて現専務理事(と云っても当時27歳ぐらい)のクルマに同乗して現理事長(当時三十代半ば)と三人の道中となり、その後の古本屋人生では◯◯◯◯◯さんに避けられるようになっていったこと。数年後の夏に同じく函館へ庄一氏、薫風書林、藤井氏とクルマで仕入れ旅行に行った時の話。某店で薫風に『ジャン・ジュネ全集』揃いを先に買われて悔しい思いをしていたのだが、その後、スガもエロシェンコの初版本を◯◯◯書店さんでとってもモデレートなお値段で入手し、みんなには話さず一人秘かなヨロコビに浸りながら帰路のクルマに乗っていたこと。ケルンさんも共に店員として勤務、修行したH文字屋さんの話。稲垣足穂のお弟子さんで昨年亡くなった元小樽文学館勤務の詩人で古書通だったKさんの話など。澁澤、種村、高橋睦郎、鷲巣繁男など、知り合いに凄い人が多すぎて、それであの人はまとまった著述を残せなかったのではないか、なぞとエラそうにスガが私感を述べてみる。3時近くでお開き、恊治君、夢さんと大浴場へ。ネオン消えて寂しき夜の温泉街を眺めながらの露天もまたよろし。話が長くなりそうな夢さんの聞き役は恊治君に任せて戻り、4時近く就寝。