須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

土曜 堪能そして烙印

 12時半起床。宅配便一箱来。妻がお世話になっているマルヤマ先生さんから青島ミカン一箱。これでビタミンCが補給できる。一年通して我が家で口にするミカンはほとんどがこの先生から戴いたもの。15時現在、雨、6・8℃。
 メール1件。人様から見て自分という人間はつくづく重々しさが感じられぬ男なのだなぁ、とあらためて自覚。

 5時半外出。今夜はお客さんのT畑さんにお誘いを受けており、同じく妻も招待されているのだが別々に出る。雨は上がっているが傘を持って。6時、狸小路三条美松ビル4階の「樹」という天婦羅屋さん着。カウンターに座っているT畑さんに挨拶。とほぼ同時に停電。この店のみならずビル全体、いや、このビルだけでなくこの一画が全戸停電。非常灯は点いているので真っ暗ではないが、当然は調理できず。妻を一階に迎えに行きまた階段で戻り、しばらくして復旧。この間15分ほど。

 最初に「これから召し上がっていただくのはこの海老です」とご主人が一匹カウンターに載せると、生きた海老がぴょん、と跳ねる。それの揚がったのを口に入れて、さっきのエビちゃん、ごめん、成仏してくれ、南無阿弥陀仏、アーメン。次々に揚げられる江戸前天婦羅を塩でいただいてゆく。「天婦羅を食う時は親の仇を討つように、揚げたてを次から次へと食わないとダメなんだよ」とかって、語りおろし本の中でウンチクしていた池波正太郎の言葉を実践してひたすら、はふはふと喰う。酒はビール、地酒、シャブリ。遠慮しないでというお言葉に甘えて、すいすい飲んで、至福を味わう。蕗の薹の天婦羅、噛むとぱあっと香りが鮮烈。最後は天茶漬け。いやあ堪能。天婦羅のコースは30年ぶり、天婦羅屋にも十年以上入ってなかったなあ、とビンボー人は回顧。続々と予約、フリーのお客さんが絶え間なく繁盛している店だ。手伝いの女性が一人いるが、ご主人がほぼ一人で仕事をこなしている。これはとてつもない緊張の持続を要する過酷な労働であるなぁ、と理解。

 8時過ぎ、二軒目はナントカビルのスナック「赤と黒」でウィスキー水割り。老夫婦、と自分と同世代らしき息子マスターさんの三人でやっている店。亡くなられた詩人河邨文一郎さんもいらしていたお店であるとか。トイレ入ると、中はスッポンポンの女性の写真で所狭しと埋められ、飾られているミニ・ギャラリー。カウンターの中にエレクトーン(Eピアノじゃなくて)があり、マスターの伴奏で全国の高校校歌が歌えるというのが売り。自分の大先輩であるというお母さんと母校室蘭栄高校の校歌をデュエット。この歌は土岐善麿作詞、「海ゆかば」の信時潔の作曲。母校自慢ではなしに、これは詞曲ともに良い歌なり。ここに来るお客さん、50〜70代ぐらいの人が多いようであるが、まあ、おそろしく歌がうまい。小林旭に顔、声、歌、に成りきっているオジさんがいたが、これがまた完璧といいたいほど。妻はT畑さんと一曲デュエットして、先に帰宅。その後も自分、調子が出て来て、モップスたどり着いたらいつも雨降り」、ストーンズ「ルビィー・チューズデイ」など奨められるままに歌う。

 三軒目。「ビートルズライヴハウス/BATLES」(南6西3秋水ビル5F)。経営者でもあるビートルズのコピー・バンドがビートルズの曲のみを演奏する店。10時過ぎより1時からの最終回まで、三回のライブで20曲近く聴きながら、アーリー・タイムズ水割りをかぽかぽ。T畑さん「Taxman」、自分「Here ,There and EveryWhere」他、ぼかぼかリクエスト。3時間半も滞留、大満足、大いに楽しんだ。経営者でマッカトーニー役のPaul 牧じゃなく、Paul Qちゃんと話す。自分の癖でテナントの店賃などの失礼な質問をしたが、友好的に遇して貰えた。いい店。自分の金で来られる身分になりたいもの。

 と、ここでお茶でも飲んで帰途につけば賢かったのであるが、調子にのり、もう一軒、自分の知っている数少ない店である「焼き鳥じゃんぼ」へT畑さんをお誘いし、T畑さんのお金で飲んだのである。入口に足を踏み入れた所で「や、スガ君、今まで詩人のMMさんがいたんだよ」とマスターの三宅さんから声をかけられ、席で日本酒を飲んだところまでは覚えているのだが、記憶があるのはそこまで。

 気がつくと自分は自宅で嘔吐三昧の状態であった。「自分で後始末できないなら飲むんじゃない!あんたはゲロリンマンよ!愚か者!」と妻のビンタが炸裂。朝になっても吐き続けていた。洗面台、トイレは反吐の海と化す。久方ぶりの徹底した嘔吐である。今日から自分は魂の使者デロリンマンならぬ、どうしようもない酔っぱらいのゲロリンマンの烙印を押されてしまったのだ。ああ、せっかくの天婦羅がもったいない、高級なお酒が惜しいよ。御馳走して下さったT畑さんに申し訳ない。ゲロリンマンだ、オレは。ゲロリンマンだ、オレは。と、脳内にリピートしながら浅い眠りを眠ったのである。やはり傘も何処かに置き忘れて来たことだし。嗚呼。