須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

酒の好きであった男である

 昨日の日記を「4時就寝」と書いて終え、さあ、あとは酒飲んで寝ようとしていた午前3時45分頃に電話鳴り、出てみるとやはり苫小牧の兄。父が午前3時35分に亡くなったと大滝の病院から連絡があった由。これから大滝へ行くので待機していて欲しいとのこと。肉親、親戚、友人など親しい者には誰にも見取られずに死んでしまったことになる。

 起きてからやろうと思っていた年賀状書きを妻にやって貰うこととし、また留守中に備えて、パソコンのメールの開き方、返信の仕方などを教えるが、<日本の古本屋><楽天>などそれぞれに受注確認メールの送信方法など違うので、俄に覚えさせようとしても無理なようである。急ぎの用向きには電話で対応してもらうことにする。

 30日に入金確認できた分、これからすぐに送金がありそうな分の冊子小包を作ろうとするが、伝票のみ書いて取り止め。少し寝た方がいい、という妻のアドバイスに従い5時半床に就く。が、足が冷えて眠れず。6時過ぎ、兄から電話。今、大滝の病院。伊達の「やすらぎ」という斎場に父を連れて行くことに決まり、これから出る由、また電話するから待ってろと。6時半就寝。

 10時起床。妻が書き漏らしていた分、年賀状四枚書く。梱包五ヶを先にすべきか、これから数日風呂に入れないのに備えての沐浴を先にすべきか、何れを先にすべきかと優先順位を決めかねていたところに兄から電話。今しがた、自治会長さんとの話が終り、これから枕経。葬儀の日程が決まったらまた連絡する、と云う。今日は行かなくていいのか、と訊くと、兄もお経が済み次第苫小牧に引き上げる由で、遺体は斎場で預かってくれるのだそうだ。夕方には帰郷しなければならないのかと考えていた自分は、幾分気持が落ち着く。もちろん昼風呂は中止。A本屋さんへ5日のバイトの件が微妙、とのメール送る。

 12時現在、晴(時々雪)、−5・7℃、東の風3m/s、湿度69%、日中最高気温−3℃。2時半、第一食。うどん、ナットー、トースト2、ミニクリームパン2、カフェ・オ・レ、冷水。

 梱包二ヶ。昨日のラーゲルレーブのお客が冊子小包ではなく宅配便のメール便で送本してくれと云って寄越し、一度断ったが執拗なのに負けて荷造りしてみると、厚さ2cmを超えてしまい、結局、冊子で送ることとなり冊子送料計算でオーバー分50円を負担する羽目になる。

 4時過ぎ、兄より電話。通夜2日、告別式3日となる。2日、兄達は9時から斎場入りするので、あまり遅くならずに来てくれろ、カッコつかんからよ、との指示。極めて小規模な葬儀になるのでは予想していたが、葬儀屋さんサイドから160〜70万の出費がもうすでに算出されていると云う。

 正月三ヶ日は避けるのかと思っていたのであるが、2日3日とは、煩わしい話である。そもそも葬式というのは迷惑なものだ。肉親でさえ、もう少し日を選んで死んでくれれば好かったのに、と思うぐらいだから、親戚や知人の参列者には、最期の最期まで、タイミングの悪い要領のよくない男として顰蹙をかうのではないだろうか。或いは、ちと意固地な面もあった人間であるから、お前らだけにのんびり正月送らせるかってんだ!と混濁した意識の中で選択して大晦日に死んだのかもしれない。

 年に不足はない。中村真一郎福永武彦と(並べるのも畏れ多いが)同世代である。今月20日に見舞に行った時から覚悟は出来ていた。でも、1月一杯は持ってくれないかな、いや春までは、いやいやもっと来年末ぐらいまで生きてくれないだろうか、と望んでいた。父は一生出世とは無縁であった男である。短気短慮な面の著しかった男である。管理されなければいくらでも怠けた男である。だが、管理されていた間は一生懸命に働いた男である。たいへんにたいへんに酒の好きであった男である。たいそうすこぶる享楽が好きであった男である。娯楽の少ない時分には日本の大衆小説を多少は読んだようである。孤独には絶えられない淋しがりであった男である。北海道弁で云うと所の、何かあるとやたらに「おだつ」、お調子者であった男である。それらすべてをひっくるめた血がこの自分に流れているのを感じる時がある。二番目の息子をこの年になるまでいろいろと援助をしてくれた男である。そしてその息子からは迷惑ばかりのみで、死ぬまでついに何も返されなかった男である。

 8時から某誌投稿のために詩のごときものをワープロで書く。自分では天澤退二郎風の散文詩のつもり。洞爺湖温泉の友人川南や薫風書林佐々木君も登場する。11時半、一応出来たことは出来たのであるが、規定枚数4枚超えて5枚となり、カット、推敲、校正、共にやる時間がないので、以前に書いた10行余りの短いものをFAXで送る。かなりフザケたものなので、おそらく(きっと)駄目だろう。

 12時からマグロ刺身、トリ唐揚げ、天ぷらカマボコ、湯奴、で酒。ビール、日本酒浦霞、焼酎二種、さつま紫金色幻酒、<合同酒精>の鍛高譚カーペンターズ、懐かしのGS、ストーンズCCRなど聴きながら、5時過ぎまで一人騒ぐ。とても親を亡くした人間とは思えないと妻に評される。6時就寝。