須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

山本文庫の謎とある臨終の記

 午後起床。曇り。昨日より少し下がって最高気温22度の由であるが、この家の中はやや寒し。またストーブを焚く。
 7時半頃、電話あり。実家親戚関係には古本屋から足を洗ったと伝えてあるため、電話のベルが鳴っても、店をやっていた頃のように威勢良く「はい、須雅屋でございます」とは言えず、ただ「はい」とそっけなく発語して、じっと黙ったまま、相手の出方を待つという癖がこの8年ぐらいずっと抜けず、今日もまた「はい」と電話に出て、2秒ほどの後「スガです」と付け足して、相手の言葉を待った。と、数秒後(10秒は立っていなかったが5秒はあったと思う)、いきなり「ヤマモトブンコアリマスカ?」と小学生の男の子の声のようにも、若い女性の声のようにも聞こえる声がした。は?と一瞬とまどったが、ああ、山本文庫ね、と認識できたので、「山本文庫は今、在庫ありません」と答えると、「ソウデスカ」と電話は切られた。      

 電話が終わってパソコンを見ると、席を外していた間にメールが一つ来ていた。開いてみると、「お尋ねしますが、山本文庫 ソグープ大尉のお茶はありますでしょうか」という文面。差出人名はない。ありゃりゃ、面白い偶然か、と驚いたが、着信時間を見ると7時21分のメールであった。今の電話の人か、せっかちな人だな、メールでの返信待ちきれなかったのかな、と思いながらメールアドレス見ると、数日前に手帖文庫の「明治元年」をキャンセルしてきた人と同じであった。やはり女性であることは女性であったのだな..........珍しい文庫蒐集が趣味なんだろうか............でも何故山本文庫、何故ウチに?.............何年か前に『彷書』に自分が書いた山本文庫についてのエッセイを読んだんだべか?..........在庫のない山本文庫よりも在庫のある手帖文庫買ってくれぇ........と内的独白しながら、「「ソグープ大尉のお茶」は18年前ぐらいに一度入荷しましたが、その後入りません。また、現在、他の山本文庫の在庫もございません。お役にたてずすみませんが、ご返事まで。」と返信した

 その後、TV野球観戦(西武×巨人)、「NHKスペシャル」を見、入浴すまし(自分はざっと1時間から1時間半かかる)、深夜1時からの「アニメ火の鳥」見る前にメールチェック。と、さきほどの山本文庫、つまり手帖文庫の女性からまた、差出人名なしで問い合わせが来ていた。読んでみると(ちなみに道外在住の方)

「実は1冊山本文庫を持っているのですが、売りたいのですが、幾らで買い取っていただけますでしょうか?山本文庫 従軍日記 カロッサ作 昭和11年6月25日こちらの希望価格をお聞き届け下さるなら、送料と手数料込みで9000円で売れたら大変嬉しく思いますが、どうぞ宜しくお願い申しあげます。返事お待ちしています スイマセンガカメラの方が壊れているため、画像はありませんが、ただ読むのに支障はありませんし、年代からすれば良い状態だと思います
追伸 身近に住んでないので、中々そちらに出向けないのでメールにしました事御了承下さい」

というもので、何がなんだか自分は分からなくなってしまった。調べてみないとハッキリとは断定できないが、「従軍日記」(片山敏彦、竹山道雄訳)、古本屋の売り値で5、6千円から、せいぜい1万円ぐらいのものなのではなかろうか。「ソグープ大尉のお茶」(ケッセル)はもとより、「明治元年」もほんとうに買うつもりがあったのか、あらためて疑問に思った。「当店極貧につき、現在、仕入れはほとんど中止しております。お申し出の件、当店ではお取り扱いできません。すみませんが、よろしくお願いします。」と真実の理由を述べて返信。

 野球は、オリックス10×横浜7、日ハム6×阪神11、西武11×巨人5。ハムは光の見えぬ11連敗。得意なギターでカントリーやフォークソング歌う(試合中ではないが)ヒルマン監督は嫌いではなかったのだが、これでは今年いっぱいでさよならになりそう。最近俄然売出し中の西武の「おかわり君」こと21才の中村剛也タイムリーヒットを1本でなく2本、HRも?本でなく2本と、1ゲーム中にさらに打つ、マルチに打つ、つまり「おかわり」するので、この愛称がついたようだ)、スラリと足の長い現代の野球おにいさんたちとは異なり、体型がぷっくりしていて、脚もほどよくコンパクトで一昔前の野球選手を思わせるところに、自分としては親近感が湧き、好感を持つ。今日もタイムリー2本の後は2ランHRと4打点の活躍。

 NHKスペシャル「トラック列島3万キロ・時間を追う男たち」。ますますウルトラに過酷になりつつあるトラック長距離運送業界の実情を追ったもの。被害者の数や、被害の規模ではあれほどにはならぬであろうけども、一瞬の油断や気のゆるみで、JR西日本脱線事故のような惨事がいつ起こっても不思議はない、人間の能力の限界を越えた過密なスケジュールで成立している労働の現場が、現代の日本にはいくらでもあるんだと思う。その代表的なケースがこのトラック運送業界である。この業界、年々中小の会社の年商は低下し、年々ドライバーの年収も下がっているのに、就労時間は増加し、仕事もハードになっている。睡眠時間毎日トラック内で4時間ほど、長崎の自宅に帰るのは10日に1回で頑張り続ける、足塚さんという取材されていたドライバーさんが心根の暖かそうな人で、すっかり制作サイドの術中に嵌まったのかもしれないが、ちょっと泣けたのである。自分であったら「トラック絶望運送」(鎌田慧に断って)とタイトルつけたいこの番組、泣けたのである、明日をもしれぬ我が身も忘れて。

 入浴後、さきほど書いたようにメールチェックし、「アニメ火の鳥」を見ようとテレビをつけ、音声を聞くためラジオもONしてほどなく、目を話した隙に怪異な事件発生。テレビが消えている。スイッチは入っているのに、ザーと流れる砂嵐のような画面ではなく、完全に消えているOFFの状態。一度スイッチを消し、もう一度つける。15秒ほどして、赤茶けた画面が映り、やれうれしや、と喜んだのもつかの間(2、3秒ぐらいか)、プンという音を残して、また消えてしまった。ついにこの、長年にわたり酷使してきたテレビジョンの寿命が来たと悟るのに時間はかからなかった。ノータイムで理解したのである。夕食を食べながら、ラジオからの音声のみで聞く「火の鳥」は奇妙なものであった。「想像力の涵養になる」とやせ我慢の自分に妻は「よかったね、サッカー北朝鮮戦の後で。でも、どうすんの明日から」と言った。ほんとうにどうするんだろう。新聞を取ってない自分はテレビだけで、社会との、カボソイ関係を保っていたのだから。いよいよ流謫幽閉の境涯は深まるばかりだ..........ああ..........なんちゃって。まっ、明日からはラジオデイズと洒落込むとするか。

 ラクテンへ10点UP。断酒。