須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

日曜 優良書市

 6時半起床。ESに2点入力UP。さらに、すでに2月初めから出品中の「開高健全集」7万5千円、井上靖限定本「沙漠の旅・草原の旅 -オリエントの道-」3万円の売値をそれぞれ5千円ずつ下げる。月末に向けて金を作るため、少しでもやれることをやろうというわけだ。開高全集は現在ネット上で「日本の古本屋」に神田・田村書店の8万2千円が出品されているのみなのに、せこせこ値段を変えなければならないとは、何か自分がとても卑小な存在に思えてくる。実際そうなんであるが。

 9時半、昨日に同じく頓宮神社着。本日は札幌古書組合の優良書市。すでに札幌組合員はじめ、他組合からのお客さんも会場入りし、品物あらためて入札中。道内の古本屋さんはチラホラ見えるが、本州からの来場者は、年に一度の大市(下値5千円)を、9月、3月の二回の優良書市(下値3千円)に分割開催するようになってから、すっかり少なくなった。以前と違い、本州の大手も、さして珍しい本が出ないのに札幌くんだりまで来るほど、暇も余裕もなくなったとみえる。
 欲しいものとしては、やはり昨日、自分で仕分けしたS女主人の口。おそらく、文学関係で最も利幅を産むのはこの口である。時と場所にもよるが、必ずしも、稀覯本、いい本と、もうかる本とは一致しないのだ。外国文学ホンヤクの山二口、日本文学の山二口、計4口に一旦入札するものの、全部落札した時の支払いと、自分で作った山ながら置き場所を考慮して、トリヤメ札を入れる。ああ、情けねえ。

 11時から開札始まる。富良野の風書房さんが、元気にばたばたと落札しているのを、◯◯◯◯さんが、落とせなかった腹いせに「どうした、宝くじか、馬でも当てたか」とカラかっている。Sさんの口、思った以上にいい札が入り、総計15万ほどになり、彼女のためにはまずはよかったと思ったが、須雅屋の商売的には不満。自分は発声係。10人ほどの開札係が入札封筒を開け、最高値を記入、札集めの係が発声台に運んできたそれを、札改めの係2人がチエックしたのを、次々に商品名、落札値、落札者の3点セットで読み上げてゆく。途中、「永井豪◯◯本口一括、◯◯◯◯円、△△△△△屋さん」と読み上げながら、驚く。これは、この数字はいったい・・・・・・。第1回目の発声終えて、現物を見に行ってみると、壁際に積み上げられていたじゃんく・まうすさん出品の口であった。永井豪の、さあいったい何百冊あるだろう、大山が、ああ、・・・・・。隣の山、同じくじゃんくさんの出した手塚治虫の何百冊もバカ安、松本零士と雑誌の山はそれぞれボー(売買不成立)になっている。店舗をたたんで通販専門になるべく身軽になるための在庫処分のため、今回の市に大量に出品していたようだが、止め値は特になく、つまり3千円からの成り行きに任せていたみたいであるが、古本屋さんたちの善意に期待してはいけなかったのだ。そして、時と場合によっては自分もそんな古本屋さんの一人になりもするのだ。それにしても、うう・・・・・柄にもなく同情してしまう。

 第2回開札終え、昼食休憩はさんで、第3回、第4回、最終開札と進み、2時に終了。自分は何も買わぬつもりでいたが、「衣裳の太陽・馥郁タル火夫ヨ」という戦前の日本で発行されたシュルレアリスム稀覯雑誌の復刻版が出ているのを、昼休みに発見、何も買えぬのも悔しいので、これをを16890円で落札。出品封筒の字を見て、神田のT書店が出したものだとすぐわかった。それと他に、A本屋さんが落札した文庫の山(Sさんの口)から、以前にお客さんの探求書にあった本、カタログに使えそうな本、個人的に読みたい本などなど、40冊ばかり譲ってもらった
 1月末に発行された札幌古書組合合同目録の表紙となった鈴木翁二の絵がよかった。これは、じゃんくさんが買ったが、意外に札が入っていなかった。金があるなら自分用に落として、部屋に飾っておきたい絵だと思った。安部公房の「魔法のチョーク」は◇◇◇◇◇さんの掌中に。まだ無名時代の戦後すぐに「世紀群叢書」の一冊として出たガリ版刷りのレア物。落札値ちょい高めであるが羨ましい。巨匠K堂は相変わらず着実に仕入れていたが、今回は全体とおしてみると◯◯◯◯さん、◎◎◎◎さんの台頭が目立った。だが、実際に最も儲けたのは大量に出品していた●●●●●さんだろう。

 セリ終了後、検品、地方荷梱包発送、市内発送、掃除と、4時過ぎには後かたずけ終わったが、会計の計算が会わず(ミスの犯人は古道具屋兼業のA氏だったが、ご当人はとっくに帰って、姿なし)、それから丸1時間以上たって、ようやく解放される。日中繁く大ぶりの雪が降っていた時間もあったが、帰りには上がっていた。薫風とじゃんくさんは、九州から来た古本屋さんたちと、蟹を食って酒を飲む由で、二人してすすきの方面へと向かった。じゃんくさんのうつむいて歩く姿が、気のせいか悄然として見える。一緒に飲みに行きたいが、手元不如意の自分はタクシーで帰るリブロさんに誘われ同乗、平岸から徒歩で帰宅。メール・チェックして入浴。

 8時過ぎ、実家からの食料品を両手に携え、妻帰宅。日本酒。

 ESから注文2件あり。デュ・モーリア「愛すればこそ」、カーのハヤカワ文庫2冊。