須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

作戦成功。だが、せこし。

 7時45分起床。8時40分自宅出、地下鉄で大通駅まで、9時15分札幌古書組合交換会会場頓宮神社着。

 すでに千歳のダンケシェーン書店を除く事業部員全員(東京組合では経営員と呼ばれているが、なんのことはない、市会下働きの肉体労働要員)と専務理事の薫風書林が集合し、荷を2階会場に上げ終え、陳列もほぼ終えていた。自分はある事情で正式の事業部員ではなく、事業部長A本屋さんから依頼されて手伝っている準事業部員とも言うべき微妙な立場である。

 隅に置いてあった「出さないで下さい。自分で並べます。スガ」と貼り紙がしてある昨日の箱から本を取り出し、第一回開札の台に並べ、中国関係一括と記した入札封筒をつけて出品完成。札幌組合が全国に先駆けて採用した止め値公開方式(従来通り、非公開で封筒内にこれ以下では売らないという最低入札価格を書いた紙片を折って入れておくこともできるし、封筒表の止め値欄に数字を記入し、公開することもできる)を使い、止め5000円とする。20坪あまりのセリ場は、見回すまでもなく、閑散として荷が少ない。これは理事長や事業部長にとっては困ったもんであるが、それだけ荷が目立つので出品者にとっては好都合なのである。実際、ボリュームだけは自分の荷はなかなかのモノである。

 10時前、早くも桃苑書房(とうえんしょぼう)さんが現れ、中国関係一括の前で足を止め、丹念に見始める。「あなたのご専門の中国関係ですよ。さあ、ばーんと思い切りよく、大きな数字をお書きなさい。古書須雅屋の出品した本を入手できる機会を持てるとは、ああ、あなたはなんて幸せなお方なんだ。さあ、精一杯の数字をどーんと一発」と本を値踏みする桃苑書房さんを眺めつつ自分は念を送る。「これが余計なんだよな、まったく邪魔になるだけなんだよ。おまけに揃ってないと来てんだからな」と『探検の世界史』をぽんぽん鉛筆で叩きながら、文句をつけている。桃苑書房さんが入札用紙を封筒に放り込み離れるのを見届けた後、おもむろに近づき、【5500円 スガ】と書いて自分の出品物に入札。続けて、【5000円  くんぷう】と一枚、さらにもう一枚空札(何も書かず白紙のままで折り込んだ札)も入れる。かように封筒を膨らませることにより、この後の入札者に、これはなかなか人気がある、きっといいものなのだろう、との暗示を与え、止めの5千円ちょいでは買えないぞ、と思い込ませ、入札価格を上げさせる効果が期待できるのである。せこい。なんてせこい俺なんだ、と自分でも思うのであるが、せこいのが古本屋という職業なのである。

 10時開場後、ぽつらぽつらと来場し、次第に人が増えてくる。富良野から雨書房さんもはるばると。休憩コーナーでお茶を飲む。場内一周して荷物を見、入札を終えてきた桃苑書房も腰掛け、娘さんが中国で仕事していたI堂さんに、いつものように一時間近くも遅刻して来たダンケシェーンさんとで、中国旅行の話を始める。後から桃苑書房の盟友◯◯書房さんも加わり、主に中国のトイレの話で盛り上がっている。窓の外では大ぶりの雪が繁く降っている。

 1月に組合で出したカタログ『さっぽろの古本屋』第2号の目録掲載金額7千円と後期分組合費ふた月分4千円を払う。『さっぽろの古本屋』に書いた原稿料5千円をこちらから申し出て無事貰う。他の執筆者の皆さんにはとうに振り込まれている筈と先日A本屋さんから情報を得て、不良組合員の自分の分は有耶無耶にされるのではと心配していたのである。

 10時半過ぎ、K堂Jr.到着、例のごとく何箱か出品してくれる。今日は何も欲しいものがなくていい塩梅だわい、金を持って帰れるぞ、と安心していたのであるが、K堂さん出品の中に注意を引くものあり△△書店や◯◯書房の一団が手に取って熱心に見ているので、後から行き検分すると、『ヒッチコック・マガジン』『EQMM』『黒の手帖』各創刊号、探偵雑誌『ロック』、香山滋掲載の『宝石』など雑誌十数冊とプレス・ビブリオマーヌ刊・山中散生全訳のオパール・コレクション20冊。オパールはケース欠であるが、これは一冊(というか一枚の両面にランボーブルトンなどの訳詩とイラスト、タイトル、作家名が印刷されている冊子であるので一枚というべきか)1000円から2000円で分売できる。全体で売値4万から5万にはなる。封筒を見ると止値が5000円と出ている。確実に落とすのならば、1万から始めて、1万5千円以上入れなければ駄目だろうが、自分としては△△書店に5100円とかで安く買われ、ウハウハされるのが一等面白くなく、これを阻止するための数字、【6890円 ー9890円】を書いて入札。                              
 11時第一回開札。中国関係一括、意外にも富良野雨書房さんが落札。しかも三枚札の上札の1万6千台。二番札は円山さんの1万4千台が絡んで突き上げており、自分にとっては最上の結果である。桃苑書房さんはと言えば【6190円ー10690円】止まりで、「これだけが欲しかったんだ」と図録一冊を指して言っていたが、しばらく台の前から離れなかった。久しぶりに成功した作戦に、気分を好くして、「それでは第一回の発声です」と落札価の発声をやる。自分は発声担当係なのである。

 第二回開札寸前、逡巡したあげく今日は何も買わずに1万5千円弱を握って帰ろうと決め、『宝石』その他雑誌とオパールの口に【トリヤメ】の札を入れ、入札から降りる。まちがって9690円で落ちでもしたら、現金は5千円前後しか貰えなくなる。結果、◯◯書房さんが1万2千台で落札。

 市は正午前に終了。後片付け済ませてもまだ12時半。萌黄さんに頼んでおいたグラシン紙100枚分けてもらう。帰り、映画書のR平岸さんとスターバックス・コーヒーでお茶。薫風も誘ったが理事会のため来られず。ヤフー・オークションの話を聞く。売り買い両方で使っているとのことだが、仕入れの面ではサギまがいに遇って時々失敗しているらしい。ほぼ8年ぶりぐらいに、飲食店で他人に御馳走する。コーヒー代、6百円。ううっ。次回からはやはり、ドトールにしようと思う。
 2時、南平岸駅着。<西友>3Fの<ダイソー>で文具と電球、<Maxvalu>で酒温情3リットル1080円を購い、2時半帰宅。

 深夜、Eazyseekから注文。東京練馬の人なり。『鳩よ!』の谷崎潤一郎特集。取引履歴見ると市川雷蔵ものばかりを買っている。何か原作物の映画に出ているのか、どういうつながりなのであろうか?と疑問に感じつつ、メール返信。酒。