須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

金曜 出張三日目、飲み会

 午前8時半起床。最低17・7℃、最高23・5℃。昨日食べずに持ち帰ったオニギリ2ヶ、ナットウ、冷水、ミニあんパン1、牛乳、紅茶にて第一食。

 9時50分出。郵便局で金おろし、冊子2ヶ出す。<Maxvalu>にて携帯用セロテープ2ヶ、家で済ませて来たが緊急状態となりトイレ借用。地下鉄。10時半某家着。ご主人と女性3人。うちお一人、Sさんのお姉さんから挨拶を受ける。本を縛りつつ、出品明細用のメモをとってゆく。ご主人、ちょっとお疲れ気味の由なので今日は3時終了を目指す。1時間ほどしてSさん来る。ご主人からまた昼食誘われるが本日もお断りして作業続ける。仕事しながらバードウォッチングも出来、いい家だなと思う。40分ほどして戻って来たSさんから「スガ君、評判いいよ、見るからに真面目そうだって」と報告を受ける。「あれ?そんなに真面目だったかな、と俺は思ったんだけどさ」と笑いながら追加したあとSさん帰る。一時間遅れて4時半作業終了。仕分けと縛りは完了した。

 帰途、2年ぶりぐらいに弘南堂さんに寄ってみる。外のサービス品棚にワッサーマン『若きレナーテの生活』(昭15)があり、なんか見覚えがあるな、このグラシン紙の掛け方といい、と思いながら手に取ってみると果たしてそうで、「平成16・2・15 札幌市豊平 須雅屋より」と鉛筆書きした横には生意気な須雅屋売価も記されてあり、前の方の頁には請求書のコピーも挿まれていた。お客さんの顔も思い出され、あの先生亡くなられたのかな、と後から清算の時に訊いてみるとやはりであった。挨拶した後、中で本棚を眺めていると高校生らしき半袖ワイシャツ・黒ズボン姿の少年が入って来て、弘南堂さん父子二人と親しげに口をきいているので、この子はもしや、と思っていたところに、息子です、と紹介される。庄一氏より背丈がありそうで、こんなに育っていたのねえ、と内心驚く。三代に渡るファミリーが一堂に会した姿を見られた者は古本業界にそう多くはない筈で、感動的であり今日の偶然を愉快に感ず。コーヒーをご馳走になる。親父さんが二階に上がられた後、荷物を軽くしたくもあり、多少のためらいはあったが許可を貰い、持参していたオニギリ2ヶを食す。再びコーヒーが出る。この二杯目は売り物になると思えるほど美味。志賀直哉文庫2冊、パステルナーク/工藤正広訳『晴れようとき』、現代詩文庫分けて頂く。1000円なり。

 6時40分、弘南堂さんを出、サッポロ堂さんに寄り、まだ間にあいますか?と出品原稿の1点訂正をお願いする。鷲巣繁男の第一詩集『悪胤』の本文中詩篇タイトルに少し朱チェックあるのを今日発見したので「極美本」としてあったのを削除して貰う。この本を目当てに道外から今度の特選市に来場する古本屋さんに飛行機賃返せと云われたら困るので。ちょうど校正の真っ最中で、傍に印刷所の社員さんらしき人も控えていた。表通りから見た分には入口が蔭になって、営業しているのかしていないのか分からない薫風書林の前へ行くと、灯りが付いているので中に入り声をかける。スゴイことになっている。店内至る所、本の砦、万里の長城、グランドジョラス北壁、って感じでカウンターの上にも本の壁が出来、店主の顔がまったく見えない。少し話して出る。地下鉄ですすきの。三条ビル。二階に上がり亜本屋さんと3分ほど打ち合わせ。地下に降り7時過ぎ<かやの家>へ。

 渡辺、川南、すでに来ている。渡辺とは1年、川南とは3年ぶりか。ビール1杯のあと泡盛と焼酎のボトル1本ずつ。今騒がれているメタミドホス米問題で引揚げられている焼酎が何種類かあると店の人が云う。1時間ほどして内田も合流。一緒に親族結婚式のために来札した奥様はホテルにおいて来た由で皆残念がる。料理は渡辺が頼んでいたコース。蕗と天カマ?の煮物、漬物、刺身盛り合わせ、シシャモ、鰈揚げ物、毛ガニ。不思議なことに◯◯◯はどちらも◯◯◯◯が初めから抜いてあるのが出て来た。内田と川南は四半世紀ぶりだそうでお互い懐かしそうである。スガが一番変わらないと云われるが、これは進歩がないとの意味にもとれる。昔話、思い出話、バカ話でそれなりに愉しく進行していたが、最後にちとゴタゴタする。これもオレが極端な貧乏のせいかなと寂しくなる。10時過ぎ、55ビル<Lowdown>へ。缶ビール。次いで、こんなのを頼んでいいのかな、焼酎眞露でいいのにと思わず自分が内的独白した、高級(この店では)バーボンのボトル。マスターのマーサはサービスしてツエッペリンやパープルなどをかけてくれる。最後に再びゴタゴタする。これもオレがあまりに貧困のせいなのかなと哀しくなる。項垂れていた内田を<焼鳥じゃんぼ>に誘うが断られ、11時40分、地下鉄で帰途に。

 南平岸駅からの帰り、建築中MS周囲を散歩。昨年春からの分はほぼ完成間近。すげぇ〜立派である。ハイソの匂いがぷんぷんする。棟の高さから云ってもこれは自然に、わが棲めるMSが同じ大家さんの所有せる新築富裕上層MSから見下ろされる構図となるのだなあ、と納得しながら零時半帰宅。

 受注、『吉岡実 現代の詩人1』中公、斎藤邦男『詩集 華 レオ・レオーニの『平行植物』を巡って』。シャワー。後半、不幸が続いた哀しい寂しい暗い日となった。酒一合、トースト2、紅茶。ネット徘徊。「日本の古本屋」探求書配信メールを見ると宇野鴻一郎『濡れて開く』を探している人がいる。研究か、書誌作成のためか。うーむ、古本の世界は奥深い奥深い。午前5時就寝。