須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

月曜 むなしき酒

 3時起床。15時現在、晴、1・4℃、52%、日中最高気温3℃。寝ながらもずーっと2階のガキが走り廻る音が響いていた。もう帰ってきたらしい。ああ、短きやすらぎであったことよ。

 4時、うどん、ナットウ、ギョーザとキャベツとブロッコリーのスープ、紅茶、チョコレート。ジェームズ・ブラウン死去、73歳。4時から6時、FMで「ジャズクラブ・スペシャルー秋吉敏子音楽生活60周年 」。受注1件、五味太郎「うみのむこうは」。3点入力。
 7時45分出。徒歩で南21西10<nuruhachi>へ向かう。今年の北海道の12月は60年ぶりの記録的積雪量の少なさの由であるが、数日ぶりに外出してみれば、土日の雪でけっこう積っている。8時半前、<nuruhachi>着。案内ハガキではライブは8時から10時とあったので、ちょうど真っ最中で盛り上がってるところかと思いきや、店内は静かなもの。カウンターにこれから演奏するマーサ他のバンドの連中四人、自分の他に客は若い女性二人組と学生男女五人組と自分と同席した中年男性一人。鶴見さん(nuruhachiマスター鶴見勝久さん)とマーサ(ススキノの55ビルでこの夏に何度目かの復活を遂げて営業中の<Lowdown>マスター山崎雅寿さん)に『札幌人』夏号を差し上げる。ビール一杯飲んで燗酒(最終的に日本酒燗三合、赤ワイン二杯飲んで、サンドイッチ、羊肉の中華風炒め、焼そばなどを食す)。以前はプール・バーでその後アジアン・バーに変身して営業していた<nuruhachi>さん、また模様替えして今度はゴルフ・バーなる体裁(?)の店になっている。たしかに床にホールも掘られ壁にネットも取り付けてある。

 9時過ぎからライブ開演。1時間ほどでマーサの作詞作曲のオリジナル10曲ぐらいやった。バンド構成はドラム、ベース、ギター、とマーサの十二絃ギターとヴォーカル。マーサの紹介によると今日のメンバーは札幌のロック界ではけっこう名の知れた人たちらしい。本人は「自分が一番無名」と自己紹介。曲も演奏もいいのだが、「クリスマスにこんな暗い曲ばかりやって」と自作解説して歌い出した肝心のマーサが歌う歌詞がほとんど聞こえないのが残念。同時多発テロを反米的立場から歌ったらしき(というふうに歌の前の曲紹介で解釈した)「ニューヨーク・シティ」とかいう曲も何を歌っているのやらサッパリ。が、自分より5歳も年上のオジサンが(というふうには見えないが)、これだけ怒りのパワーを持ち続けている(と自分には思えた)、というのが驚きであり、それを知ったのが今日の収穫だった。1曲目の「酔いどれ舟」だけは十数年前のコンサートでも聴いたことがある。個人的には二曲目の「耳鳴り」というのが<Lowdown>でよくかかるルー・リード風でヨカッタ(と、後で感想を述べるとご本人は、いや、似ていない、と否定していたが)。マーサは1時間ほどワインを飲んで、これから店を開くと帰って行った。基本的にマジメな人なのである。

 この店に来ると必ず話題になる共通の昔の友人、火事で古本屋をやめてしまったNさんや、派手好みでキザで自信家で女性好きの画家Sさんなどの話をマスター鶴見さんと。Sさんは画家になる前は俳優志望で「太陽に吠えろ(であったか?)」にGパン刑事役でレギュラーになる以前に犯人役で出ていた松田優作を逮捕する田舎の刑事役で数分間出演したこともあるという人(ここいら辺はウロ覚えなので事実とまったく違うかもしれない)。鶴見さんは来年秋に個展開催が決定した由で、静かに燃えているようである。この人は飲食業経営者だけではなく、ゲージツカでもあるのである。どのくらい前であったかは忘却の彼方なのであるが、たしか道展の版画部門で新人賞(?ウロ覚えのため事実と違うかも)だかを貰ったこともあるのだ。
 二日酔いだという主人が早く店仕舞したそうなところに居座り続け、ラストの客として12時40分<nuruhachi>を出る。紫蘇風味焼酎「鍛高譚(タンタカタン)」1本と焼そば、サンドイッチ、ポテトチップスをお土産にもらう。風が冷たく耳が痛いので、マフラーをホッカブリのように被り、余った部分で首もとを覆って歩く。どう見ても弁護のしようもない、真夜中を徘徊する怪しいオジサンの図である。束の間でも暖をとろうとこのままコンビニへ入って行けば、警戒されてレジ下の金属バットに手がかけられるのは必至である。いつのまにか手袋を片一方落として、何処で時間を喰ったのか2時近く帰宅。

 ふふふ、と貰って来た「鍛高譚」を机に置いた。だが、パソコンを見ようと座った途端に、肘が触ったらしくボトルが床に落下し、壊れ、あっというまに酒が流れ出し全滅。悲しい。本が濡れぬようにと本の山の下に敷いていた広告紙を引っ張った拍子に山も崩れる。人外魔境の方へ数十冊の本が飛散。悲しい。後片付けに何故か2時間。指を少し切る。血がちょっと出る。悲しい。本の方は明日にする。酔っぱらいという奴はどうしようもない。4時過ぎ、暗い気持で就寝。自分の今日の一日は何であったのか。ムナシイものである、人生は。