須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

真子と等則

 午前4時半目覚め、妻と交替に5時半起床。ゴミを捨てに外に出る。晴。

 ゴミを捨てに行くというのは実にありふれた日常の行為であるが、そのありふれた行為の最中しばしば自分は「ゴミを出しに来た石野真子」というフレーズが脳裏を去来することがある。それはたしか、引退して長淵剛と結婚したばかりの新妻の石野真子が(ってこの表現、富島健夫っぽいね、オジさん!)、朝、ゴミを捨てに自宅から出て来たところをフォーカスされた写真週刊誌の見出しに使われていたコトバなのである。この記事が石野真子の芸能生活第一章(アイドル時代)の終りと、第ニ章(何と呼ぶべきか)の幕開けを告げるものであったように今では思えるのであるが、それはそうとして自分は78年か79年のたしか秋に、法政大学の学祭に来た石野真子のミニ・コンサートを見に行ったことがあるのだ。高校時代からの友人で、当時法大に在籍していた石野真子ファンの男とその弟と三人で、キャンパスで日本酒を飲み景気をつけた後、何処か中くらいの大きさの教室でコンサートを見学した。印象的であったのは、一等前のステージを取り囲むかぶり付きの席から後ろ二、三列が、応援団員や体育会系学生のそれと分かる短髪の学生服やジャージ姿で占められていたことである。「真子ちゃ〜わ〜ん」などと、それら屈強な男達が野太いながらもヘンに甘えた声をかける後方で、眼鏡、長髪、Gパン姿の目立つ純正オタクファンたちが、「狼なんか怖くない」「私の首領(ドン)」「失恋記念日」などのヒット曲に、やや遠慮がちに唱和、踊るように体を動かしていた姿が思い出される。そしてわれわれ三人も、そのうす汚いナリをしたファンたちの中にすっかり溶け込んでいたのであった。(「今現在でも十分溶け込めると思います。はい。」須雅屋妻談)

 トースト、牛乳、紅茶にて第一食。顎は心持ちよくなったような気がする。食の愉しみはまだ失いたくなし。わが生涯においての肉類と◯◯への復讐はいまだ完遂されていないのである。
 6時現在、晴、23℃、湿度78%、東の風2m/s。8時過ぎから日記書き。その間頻々と、窓から隣室の赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。日々の成長につれて、その泣き声が大きくなりつつあるような気がしてならない。それに混じって犬の吠え声。ああ、いやます暑さ。正午、曇り、28・9℃、湿度52%、南の風5m/s。蒸し暑し。今日中の最高気温は30度を超える由で、ラジオ・ニュースによると9月に入ってからの30度は札幌(か北海道)では十数年ぶりとか。途中11時半、豆パン、紅茶で第二食。
 2時過ぎ外出。郵便局にて振替の須雅屋口座から3290円、と妻口座から7980円をおろし、Sub駅界隈へ下り、<札銀>で某金融機関へ5000円、<JA(農協)>で6月分家賃第二弾36756円、<セブン−イレブン>でガス代6月分4206円を支払い3時帰宅。蒸し暑い上に、ぽつりぽつりと頭や頬に落ちてきたので、帰りは走り、どっと汗をかいてしまった。

 3時40分、毎日新聞から電話で妻にアンケート。終了後、今度からは気軽に引き受けないで下さいな、とお小言を戴く。妻の誂えてくれた鮭と冷たい番茶による茶漬けと甘納豆で第三食。どちらもあまり口を開けないでも食せるので都合がいいのである。シャワー浴び、7時から9時仮眠。結局雨は降らず、夜になり涼風あり。
 9時15分からNHK・TV「秘太刀馬の骨」第二回。半ば頃で毎回の山場、木刀での立ち合シーンあり。作成された本来の意図通り、テレビで鑑賞すれば迫真の殺陣に手に汗するところかもしれぬが、如何せん、ラジオで聴く身には、極々たまに入る武芸者の内的独白の他は、ジャズ・トランペットの音、木刀のブツカリ合うカン、カンという音、でやー、とか、おおー、とかの気合いをかける声、はあはあ、ふうふう、という男二人の荒い息遣いなどのそれぞれが、大きくなり小さくなり、高くなり低くなりして、10分ほども続くとあって、結末は分かったが、相撲のそれのような解説でも付けてくれぬことには、絵が浮かばず、この間、蚊帳の外といった感じであった。が、いうまでもなく、これは制作サイドに責任があるのではないのであって、テレビをラジオで聴いているこちらの貧困が悪いのである。

 ネットで調べてみると、音楽担当はトランペットの近藤等則で、そういえば、この人の演奏も室蘭の有線放送に勤務していた80年か81年に、東室蘭駅近くの普段結婚式などにも使用されているホールでライブを観たことがあった。ドラムスとピアノはなく、当時、国内ではまださほど知られていなかった近藤のトランペットの他には、トロンボーンとベース、ヴァイオリン(これはアイマイ)という変った構成のユニットであった。一番強烈に記憶に残っているのは、演奏もよかったのだけれど、コンサートの終り頃、他のメンバーの演奏をバックに、矢沢永吉的リーゼントを思わせる髪型の、上半身裸にサスペンダーとズボン姿の近藤が、両手にスリッパを嵌めて犬のように四つん這いになり、何か雄叫びを上げながら、客の忍び笑いが漏れる会場の通路を這いずり廻るというよりも、かなりのスピードで走り廻ったことである。おそらく、あちらこちらで毎回やっていたので慣れたものだったのだろう。まあ、とにかくエネルギーに満ち溢れているというか、なんというおバカな男、ジャズ界にもオモロイ、パンクな奴が出てきたなあ、と感心し、こちらまでちょっと元気になって、伊達紋別への列車の中、カンビールを飲みながら帰途についたものである。それからまもなく、あっという間に近藤等則は(今風に云うと)ブレイクした。

 12時過ぎに第四食を摂り、それからまた日記を書く。4時から、発泡酒1本と日本酒カップ1本を飲む。ネットのニュースで米国南部を襲ったハリケーンカトリーナ」の記事を読む。カネもクルマも所有していない「貧困層」が避難できずに直撃を受けたとある。カネもクルマもって、あんたね、ウチのこと、そのまんまやんけ。被災を受けた州も周りの州も、州兵がイラク戦争へ徴用されて不足、現在、治安を維持できていない由。他国へ行って戦争なんぞやってる場合か!という声が当然起こってくる筈で、今後のイラク情勢にも影響を与えそうである。ニューオリンズ在住のブギウギ・ピアノのロックン・ロラー、ファッツ・ドミノも被災し行方不明の由。あれもこれも、みんなみんなブッシュが悪いんや!

 6時就寝。今日で酒類きれる。