須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

日曜 大市本番

 7時目覚め。45分起床。6時現在、雨、8・0℃(最高気温14・0℃)、湿度80%。妻手製海苔弁当と目玉焼、大根おろし入りみそ汁、ミニ餡パン2、牛乳、カフェオレ、紅茶、冷水。

 跛行南平岸駅へ。地下鉄で大通。車中、十日ほど前に出品カタログと共に送られて来ていた今日明日の予定表に初めて目を通す。第一回改札はいつもの大市より二時間も遅い13時からなのを知る。雨上がりの街を歩いて途中、<LAWSON>でカップ麺150円調達し、9時20分頓宮神社着。

 3階受付にリブロさんと市英堂夫人が。札幌組合員はもちろん、すでに道内他組合の人、本州の人たちもちらほらと。皆さん商売熱心なこと。今回は例年よりもワンフロアー多く、3階の他に2階も会場として借りており、品物もこれまで自分が経験した札幌の大市では最大級の量。早くも飛来した神田の巨人◎◎書店さんに「2階はどんな本ですか?」と訊かれた市英夫人は「一般書です」と答えられたそうだが、「一般書」とはなんて便利な単語であろうと感心する。

 亜本屋さんに一昨日1時までのバイト代代わりにビール券頂く。自分も2階に降りて、本や雑誌やビデオやコケシなどがごちゃごちゃと並ぶ中、足を引きずりながら荷を見て歩き6点入札。1点は『月下の一群』元版が混じっている詩歌の山があったので札を入れたのであるが、函の背が欠損と吉成君から教えられて(紐で括ってある中に紛れている本だと並ぶ向きによって函の背が見えない場合もあるのだ)、トリヤメの札を入れ直す。大分以前に函欠を売りさばくのにエラく苦労したので(あの本も某お客さんからずいぶん高く買わされたんだよなあ)。3階に上がり20点余りに入札。ほとんどが安札、あわよくばのスケベ札。加藤郁乎22冊一括は『球體感覚』元版を除けば主要初期著作の美本揃い(しかも後から分かったが献呈署名入)、高橋睦郎『薔薇の木 にせの恋人たち』『眠りと犯しと落下と』はもうこれ以上は望めないべやと云うべき極美本の献呈署名入(しかも「薔薇」は足穂あて)。涎たらたら。とちょっとばかり疼きながらも、ま、落ちないべなあ、という安札を参加することに意義があると入札(当然落ちず、従って意味なんてなし)。

 事業部長南陽堂三代目が「薫風さん知りません?ガイモノ係なんだけどまだ来てませんよね、じゃんくさんも」と心配そうに二度三度と訊いてくるのに「連絡ないなら1時までには来るでしょ。なんか都合悪くて来られないなら無断で休む人たちじゃないから」と答える。するとまもなくご両人とも現れる。

 12時半、東京組合の役員の人たちが到着。石神井書林さん、月の輪書林さんに目礼。今日15時から全古書連秋季役員会があるのでふだんは札幌まで来られない人たちの顔も見える。そのためか会議に出席する札幌組合の理事長始め役員も皆いつにないフォーマルな服装である。会計用控え室で持参おにぎり2ヶとペットボトル緑茶。

 13時から第一回開札。自分は発声係。途中1時間ばかりは吉成君に交替してもらったが最後まで。第二回の中ほどで「『のり平のパァーッといきましょう』ほか芸能関係一括」と書かれたヌキ封筒(これを読んで発声する)が廻って来て、読み上げるのに感情を込め過ぎ、昨年と同じく札改め係として一人おいて隣に座っている薫風書林吹き出し、自分もつられそうになったが、ここで笑いの発作が起こったら札幌組合の恥になり役員さんたちから今後永久に恨まれるぞ、とこみ上げてくる笑いガスの噴出を数十秒震えながら沈黙して、どうにか押さえる。

 14時半、おおかたの本州の人と札幌組合の役員は全古書連の会場である京王プラザホテルへ。他組合からのお客様のいなくなったほとんど身内だけの気楽な雰囲気の会場で発声を進め予定より早く16時前に最終発声。落札価50万を越えるものはほとんどなかったが、細かいものではそれなりにけっこうオモシロイものが多い、零細業者にも楽しめる市だったのではないだろうか。あくまで自分のような極端な金欠業者を除いてであるが。それでも『新青年』6冊ほか全部で7点6万5千円余りが落ちてしまい、昨日までは3点ぐらいしか入札しないつもりだったのに、やあ、支払いが困った、困ったである。

 事業部員以外は帰って結構とのお許しが出、好きなだけ持ってったって、と云われたペットボトルお茶と無糖カンコーヒーを紙袋にありがたく詰め込み、じゃんくさんのクルマで薫風君と<ギャラリー・ユリイカ>へ。

 鶴見さん川村さん二人展最終日。何人か手伝いの人がいて、マーサと加藤さんも来ている。画廊主から昭和20年代後半の少女雑誌一冊分けていただく。薫風書林佐々木氏も鶴見作品に驚いたようである。17時までに店に行かねばならないと云う薫風君は15分ほどいて去り、自分は白ワイン二杯いただき今日の労働を慰労する。

 17時から片付け。あっと云う間に終わって誘われるままに鶴見さんとファンの女性約一名と狸小路七福神商店>へ。1時間ほど遅れてマーサも参加。サンマの刺身などで燗酒五合。胴体の殻を剥かれてもまだぴくぴくと動いている気の毒な活海老には食欲湧かず。女性が四尾とも幸せそうに平らげてくれる。彼女は火曜日の最後に寄った店の人で、年齢は三十代前半、改めて見るになかなかの器量で先日の店の名前も<オゾン>であるのを知り、謎が解け実にスッキリしたのである。他にも家庭教師とあと一つなんだかの仕事もしている由で偉いものだ。マーサは松尾真由美さんの詩を絶賛。2時間ほどでお開き。これも鶴見さんの奢りのタクシーで南平岸駅まで。酔って気が大きくなり<Maxvalu>で長ネギと玉ネギのネギ兄弟、日本酒白鹿カップ1、ニッカ・クリアブレンドを奮発。計千円ちょい。

 21時帰宅。入浴だらだら。カップヌードル浜塩と冷水。ネットだらだら。座りながら居眠りして本を崩す。2時就寝。足はまだ少し痛む。