須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

土曜 この22年間のこと

 朝8時半。宅配便で起こされる。妻がお世話になっているM先生より蜜柑。有り難し。だが眠たし。二度寝して12時起床。12時現在、晴、6・7℃、湿度44%、予想最高気温8℃。豆パン1、蜜柑1、牛乳、カフェオレ、紅茶、冷水。

 1時20分家を出、地下鉄で西11丁目駅、徒歩5分、2時数分過ぎに教育文化会館へ到着。三階の『さっぽろ市民文芸の集い』の会場へ。ちょうど『市民文芸23号』の表彰式が始まったところ。取材に来ていたネットニュース<BNN>の金子君に挨拶。この人、レスラーの如き肉体の持ち主なので何処でもすぐに識別できる。場内は百人ぐらいか。詩の部門の「優秀」受賞者として文月悠光さんが紹介、表彰される。最近、『詩学』と『現代詩手帖』投稿欄で注目を浴びている15歳中三天才(的)少女なり。その姿を初めて見る。「彼女は近い将来、けっこう有名になると思うよ」と金子君にその才能と早熟ぶりを吹聴。

 2時半から、東直己さんの講演「この22年間のこと」。今回、別に投稿もしておらず、従って表彰もされず、つまり無関係かつ出不精の自分がわざわざ出向いて来たのはこれを聞くため。「東です。小説書いてメシ喰ってます。こう見えても講演前やテレビ出演の前はスゴイ緊張するんですよ」と話しが始まる。

 小説とは大便である、つまり日常のなかで自然と出てくるものであるということ、結果として作家になったが作家になるために様々な職業についた訳ではないこと、小説書くのを目的にして何か或る職業につくというのは邪道、22年前『さっぽろ市民文芸1号』で作品が初めて活字になったこと、『北方文芸』投稿のこと、デビュー作出版の経緯、誘われて入会した同人雑誌での筒井康隆『大いなる助走』的内幕風景、「『さっぽろ市民文芸』とかに作品が載ると、もっと他に何か作品はありませんか?と電話や封書で勧誘して来る自費出版専門の出版社がいますから気をつけて下さい。自費出版は無意味です。自己満足するならいいですが」とのアドバイス、物語の基本パターンについて、映画『シェーン』の分析、オリジナリティと読書からの影響と効用ついて、文章について、内田百間(正しくは門がまえに月)礼賛と島崎藤村批判など。我ながら大変不遜であると思うのであるが、小説と文章については以前から自分が漠然と考えていることと(その深度は相当違うであろうが)まったく同じであったので大いに意を強くする。藤村全否定以外はすべて深く心で頷いてしまう話であった。とにかくオモシロかった。なんで面白いのかと云えば、話が勿体ぶらなく、恰好付けもなく、実に率直であるからで、加盟していた同人誌の話などは、ここまで喋ってしまっていいんだべか?とこちらが心配になるほどの具体性があったのである。社名なぞの固有名詞は出なかったが、自費出版は無意味、クダラナイからオヤメなさいとの忠告があった時は、今ここに座っているオジさんオバさんの中にも何人か自費出版で本出している人がいるんだべな、と自分が立派なオジさんであるのを何処かに放り上げて内的独白していたのだけれど、最後列斜めにいた金子君の観察では、一瞬、会場内の空気が、ピキーン、と凍りついたと云う。どうやらすでにその手の出版社から自著を出しているオーディエンスが、一人や二人ではなかったらしい。

 3時半終了。早速、金子君が天才(的)少女文月悠光さんに近づき、名刺を渡している。保護者でもプロデューサーでもないのに自分、彼女のPRをし過ぎたべか。おい、金子、もっとスガを取材しろ、オジさんで悪いけどよ。怪しい巨体の男が突然、目前に現れて話かけてきたものだから、文月さんは何が起こったのか分からず、ドギマギしているようであった。金子君と別れ、トイレに入って紳士用小便器に向かうと隣りに東直己さんが。ほとばしるその勢いの良さに感心する。お話の中で触れられた影山民夫の死因はご記憶違いではないですか?と云おうかと思ったがヤメにする。下へ降りようとエレベーターに乗るとまた東直己さんが。数秒間、狭い個室に二人きりとなる。いやあ、いいお話ありがとうございました、と話かけようかと思ったがヤメにする。

 帰り、大通で途中下車、<リーブルなにわ>で雑誌立ち見。『現代詩手帖』の選考座談会。不思議な会話が延々と。南平岸Maxvalu>でトイレロール、モヤシ2計402円を買い、帰宅。4時45分。

 6時、おにぎり、塩ホッケ、ナットウ、うどん、蜜柑3、紅茶、コーヒー、冷水にて第二食。
 九州場所朝青龍が優勝。数日前に、イギリスに亡命していたロシア元情報部員が瀕死であるという報道があったが、今日死亡が伝えられた。尿からポロニウムという放射性物質が相当量検出された由。怖るべし、プーチンKGB上がりの暗い血が流れるこの男から四島一括返還なぞは霧の彼方だ。

 日記。12時入浴。1時半、エビグラタン、食パン1、蜜柑4、紅茶。入力。80点UP。今日は市内の本屋で百間(正しくは門がまえに月)が俄に売れ出したのではないかしらん。それにしても、東さんの話、酒が好きで、もっとのびのびと酒を飲むために文章を金に出来ないかと思ったというくだりにはしみじみリアリティを感じたのであった。自分ものびのび飲んでみたいものである。断酒。午前6時過ぎ就床。