須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

昔はよかったなあ

 5時半に目が覚め、眠ろうと努めたが駄目、6時半起床。久方ぶりにはてな日記を書く。本日も朝から快晴。6時現在、20.2℃、湿度77%、北北西の風1m/S。また暑くなりそうな気配。

 トースト、コーヒー、冷水で第一食。

 8時20分家を出、地下鉄南平岸駅まで習慣的に走って坂を降りる。駅向かいのMaxvalu前にM黄書店さんのクルマ見当たらず、真面目なM黄さんは自分を置き去りにしてもう行ってしまったかと焦ったが、駅内の時計で確かめると29分、今日は自分の方が早かった。そのまま5分ほど待っていると、クルマ到着し同乗、交換会会場へ向かう。9時10分前、会場の前に近づくと、すでにトラックから何人かで荷を降ろしているのが見える。さあ着いた、しょうない、やるか、と思っていたところが、あれれ、クルマは頓宮神社を素通りして近くのコンビニへ。自分としてもM黄さんが差し出してくれたウーロン茶を断る理由もなく、古書組合のこれからなど語りながら時間をつぶすことに異存もなく、そして10分ほどして神社境内にクルマが入った時には荷降ろしの粗方は終了していたのである。あれ、俺の仕事を取りやがったな!とは自分は思わなかった。汗をかかずに済んだこと悦ばしく、M黄さんに感謝である。もっともM黄さんは元来が会計係なのだから、力仕事はほどほどにやればいいのである。それに引き換え自分はというと........。

 地方都市の市場とて、8月は荷が極端に少ないことがままあるのであるが、今回はR平岸さんの良質セコハンの出品のお陰で、そこそこ賑わっている。そのRさんの荷を並べるのを手伝う。一昨日お店に寄った時にすでに縛られて何十本もの本の束として通路に置かれてあったもの。20〜30冊でビニール紐で結わえられた本の束を、23本口一括、28本口一括と付いている符牒で分類整理し会議用テーブルの上に積み上げ、出品封筒を付けてゆく。純文学系の単行本の大山が二つ、エンタメ系が一山、他に文庫。 
 今年3月から札幌組合の古書市場へ通い始めた小樽のブックス君、先月は朝一番に来場し手伝っていたが、今月も来て頸にタオルをまいて頑張っている。他組合の人なので本来、こんなふうに肉体労働を提供する義務はまったくないのであるが、実に真面目である、熱心である、その利発かつ誠実そうな容貌といい、大いに好感が持てる。まことに前途有望な若者なり。「そういう姿勢が大事なんです。いつか報われる時が来ますよ」と自分が声をかけると素直にうなづく青年のその横から薫風書林が「ボクもそう言われ続けて20年、今だに茶碗洗いや雑巾がけやってます。店は全然発展しなかったのに」とボヤく。  
 休憩コーナーでペットボトルの冷たいお茶、熱いお茶、熱いコーヒーといろいろ飲みながら、Rさんと二人、<日本の古本屋>、<ラクテン>、<ヤフオク>、<アマゾン>、自店HP、なんでもやっているI書房社長のネット販売談義を聴く。<アマゾン>には十何万点だか出品しているそうだが、値下げ競争が激しく、今が潰し合いの真っ最中だそうだ。「人件費を考えるともう合わない」、「きびしい」と語るが、何かその表情からは余裕が感じられて仕様がなかった。

 10時過ぎからは来場者も次第に増え、途中で『季刊札幌人』のアライさんも来られて取材。「お金がない、お金がない、ほんとにないんですよ」と薫風書林がニコニコしながら喋っている。いかに貧に落ちようとも、彼には夜露を凌ぐ場所は保証されているのだから、生きてはゆける。そこゆくと自分にはなーんにもない。一応女房はいるが、いついなくなるか知れたもんじゃない。

 11時から開札、自分は第1回分の発声を担当。正午前最終発声終了。何も買わない心構えで来たのであるが、坂口安吾中島敦の文庫版全集一括、俳句2本口、詩集の山一括の3点に目をつけ、途中で詩集とりやめて2点のみに入札、結果、俳句の口だけ落札。川崎展宏の句集「義仲」、相馬遷史「山河」が含まれているが、すぐには売れそうもなく、買わない方がよかったかな、と気持ちぐらつくが手遅れ。安吾は東京の市場並の値段になっていた。他に、背はちょっとヤケていたけれど、上林暁尾崎一雄永井龍男川崎長太郎和田芳恵などのまとまって入っている山があったが、6月の市で買った詩集で家がイッパイで、置き場所のスペースと妻に頸をしめられる恐怖を思うと入札できず。落札値も決して高くはなかったので、何か面白くない、後味がよくないのである。詩集よりも俳句よりも、この口の方が売れる、利を産むのは明らかなのに、自分は一体何をやっているのか。何が悪いのか。金がないのはもちろんだが、整理が遅いのがまたよくないのだな。

 R平岸さんの出品、◯◯書房の落札した28本口の山に夫馬基彦さんの「金色の海」昭和63年・福武書店・定価1400円を見つけ譲ってもらう。千円しか持ち合わせなく、「三百円でどうですか」と申し出てみたが、返事がないのでもう200円上げて、「五百円で買わせて下さい」と訂正すると今度はOKが出た。一応「自分読書用なんですけど」と説明は加えているのであるが、相手には信用してもらえない。自分が所望すると何か高価な本、儲かる本と思われるらしいのは厄介なり。
 その◯◯書房に昨年S大を卒業して入社し、今期から市場の事業部員をやっているヒデオ君と会場の後片付けをしながら話す。
「宴会とかあるんでしょ?毎週」と訊いてみる。
「いいえ、全然」
「月に一回はやるでしょ?社長の主催で」
「いいえ、まったくないですよ、そんなこと」
これは意外であった。

 というのは、こういうことである。その昔は書肆バラントレイ店主、今は◯◯書房の専務役に納まっているHさんが今年の組合新年会で、俺は◯◯ではネット事業部担当であり、俺一人で月に<アマゾン>のみで◯◯◯万円の売上を作っているのだぜー、と須雅屋憧れの年収のごとき数字を上げて豪気な話をするのを自分ら貧乏人は(って、須雅屋と一緒にしてすみませんね、みなさん)しん、としつつ、内心はふん、と思いながら聞き入ったことがあった。で、そんなに景気がいいのなら連日連夜とはゆかないまでも、毎週のように◯◯書房では、社長の奢りで、歌えや、踊れやの、酒池肉林の豪勢な酒盛りが開かれているのではないかしらん、と酒好きの自分は勝手に想像していたのであるが、現実はそうではないらしい。自分が修業時代にお世話になった熊八屋さんでは、少なくとも景気のまあまあよかった時代には、月末の給料日には必ず店主主催の飲み会が決行されていたものである。もっとも、店員二人の熊八屋と、店員二店舗しめて十数名の◯◯堂では社長の負担がまるで違うであろうから、そう頻繁に宴会ばかりやっていては社長の小遣いも枯渇する。それにしても思うのだ。ああ、昔はよかったなあ。

 ヒデオ君からの話もう一つ。昨年あたりから彼は吉増剛造さんの知遇を得ているらしいのであるが、その吉増さんが今年になって北海道へ来られた時、「これ、知ってる?」と拙作の掲載された『彷書月刊』を鞄から取り出されたというのだ。吉増さんの詩の一行からタイトルをいただいたその小説のごときものが載った号を吉増さんご本人にも送呈したと、昨年11月上京の折、彷徨舎(『彷書月刊』発行元)田村社長から聞いていたのであるが、特に反応はなかった由であったので、ご迷惑であったかな、と、ちらと気分暗くなったりしていたのである。が、もしかすると読んでいただけたのかもしれず、これは望外の喜び、恥ずかしくも面映くも嬉しいことである。

 12時半過ぎ片付け終了。地下鉄大通駅隣接の<リーブルなにわ>に寄り、『文藝春秋』立ち読み。南平岸に着くとくもり空。霊園に鴉まだまだ多し。群は解散せず。

 1時半帰宅、シャワー。風呂場にいる間に玄関外に赤帽さんが置いていった俳句の本を部屋へ入れる。K堂庄一氏、『札幌人』へメール。◯◯書房のヒデオ君に頼まれていた(6月に市場で須雅屋が買っていた口に含まれていた由)、高良勉サンパギータ - フィリピン詩篇思潮社・1999年を探し出しメール送る。うどんにて第二食。

 夕方のニュース。綿貫民輔衆院議長、亀井静香が<国民新党>結成。鈴木宗男松山千春(?)が「新党大地」結成。高校野球、苫駒、7回に5点差をひっくり返し逆転勝ち、準決勝進出。

 7時から仮眠。2時間の予定であったが12時まで起き上がれず。起床して第三食をとる。

 寝ているあいだに、サッカーW杯アジア最終予選、日本がイランに2−1で勝ち、一位通過を決めていた。ネットで振替口座を確かめるとマクドナルド「黄金の鍵」(妻の本)の分が入金されているので、その冊子小包1ヶ作る。4時から5時、NHK TV「東京JAZZ」をラジオで聴きながら朝の日記の続きを書く。

 続いてブログ読んでいるうちに時間が過ぎる。唐沢俊一氏のmixi日記を読むと14日から17日までは京都へ行って、睡眠一日3、4時間でDVDの撮影敢行。この2ヶ月ほどの日記がいつにないハイテンションで、うろ覚えだが、「興奮」「緊張」「武者震い」という言葉が何度か使われていたように思うが、この京都太秦での撮影日記を読んで、なるほど、と得心が行った。この映画の企画、脚本のみなず、生まれて初めての監督もやっているのだ。それも、唐沢俊一がやるのだから当たり前の映画を作るわけもないのであって、紙芝居の部分と実写の部分を組み合わせた構成の、趣向の変わった映画。そして紙芝居もそんじょそこらの紙芝居ではない。人間国宝的名人が演ずる一般には見られないとてもスケールの大きな紙芝居であるらしい。それから実写は現在最もお気に入りの女優を使っての時代劇である。これでは興奮すまいことか。ねばり強い努力によって長年自らの本当にやりたかった夢の一つを実現しつつある。

 それで、自分の方は横になってから清水昶詩集「詩人の死」を読み、9時近く就寝。睡眠3、4時間で仕事に没頭ということはなく、惰眠を貪るであろう。断酒。