須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

2月25日 金曜日

 3時半起床。郵便局で金を下ろし、南平岸駅近辺へと坂を降りて行き、マックスバリューで米5kgを買い、帰宅。
 夜10時、テレビで「ターミネーター3」を見ながら、Eazyseek用の入力をやっていると、足下から腰まわりから首もとまで、すーすーと寒さを感ずる。今夜はやけに冷えるなあ、あら、待てよ、もしかして、とストーヴを見てみると、火は消えて、冷たい風だけが出ているではないか。ついに来るべき時が来たか、まあ、夜も遅いし、布団ひっかぶって寝れば今夜はいいや、と思ったのであるが、ストーブ近くにあるダンボール上の鳥籠の中を確かめてみると、寒そうに丸く羽を膨らませたインコ二羽が、力ない瞳でこちらを見上げておる。それが自分には「お世話になりましたね、お父ちゃん。ご飯、美味しゅうございました。お水、美味しゅうございました。時々しか貰えなかったけど、柑橘系、美味しゅうございました。僕たちは幸せでした。ありがとう。さようなら、お父ちゃん」、と微笑みながら挨拶しているように見えるのである。セキセイインコには寒気が一番の大敵で、まして家のは14歳とその息子の9歳の老鳥父子なのである「金之助よ、蘭丸よ、父はお前達を死なせはしないぞ」、とあわてて着込んだ防寒具のポケットに千円札押しみ、空のポリタンク片手に外に出た。たしかに寒いわい、今夜は。
  歩いて5分の一番近いGSへ行くと表の照明は消えている。建物の中では従業員たちが円くなって何かミーティングの最中で、自分がポリタンクを示しても手を顔の前で振るばかり、しまいには店長らしき男が出て来て、閉店後なのでもう売れまへんと言う。なんという非情な奴らだ、なんという冷酷な会社だ、この腐れ外道!人非人のK木石油め。と胸の中では毒づきながらも、まだ営業中の別の店を教えてもらう。仕様がなく羊ヶ丘通りを清田の方へと歩きながら「♪そりゃあ〜ひどい使い方したこともあった〜、だけどそんな時にもいつもおまえはストーブ〜♪どうしたんだ、ヘヘイ、ベイビー、機嫌直してくれよ〜、いつものように燃えて〜ぶっとばそうぜ〜♪おお〜シバレる北の夜空に〜灯油探して古本屋おとこ!ジャッジャッン!こんな夜におまえが燃えないなんて〜、ジャッジャッン!こんな夜に発火できないなんて〜」とヤケになってデタラメな歌を歌いながら、両サイドに長大な雪洞のごとく延々と続く雪の壁に挟まれた凍結した歩道を10分ほど進んで行くと、目当てのGSに辿り着いたのである。セルフサービスで10リットル520円を流し込み、帰宅。すでに11時を過ぎている。

 その後、備え付きストーブの再生をはかるべく、一時間以上かかって、ストーブまわりの本を移動、掃除をし、再び着火。だが30分ほどで消える。途中、妻が帰宅。また着けるが15分ほどで消える。自分は動きまわっているのでさほど感じぬが、インコたちはさぞかし寒かろう。ついに寝室からポータブルのFF式ストーブを居間に移動、これにも掃除機をかけ、灯油を入れて着火。ようやく部屋が暖まり出し、インコたちがさえずり始める。こうして自分は子供たちを凍死させた父親になる不名誉を辛うじて免れたのである。

 羽生善治谷川浩司を下し棋王奪取、四冠となる。昨年には一冠まで落ち込んだのに、これではまた七冠も夢ではなくなったきた。将棋を解せる分けでもなく、もちろん何か謝礼を貰えるという分けでもなく、これという理由もないのに、羽生よりも谷川を応援している自分は、他人ごとながら悔しい気持ちを味わったのである。