須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

土曜 小樽の赤い記憶

 8時15分起床。連続テレビ小説。トースト2、食パンマヨ1、プロセスチーズ1、カフェオレ、牛乳、紅茶にて第一食。19時現在、晴、22・3℃、今日日中最高気温23℃。日記。あることを回想しているうちに、まったく関心の持てない人なのだが、ある文筆業者の名前が思い出せず、「ほれ、あの、なんてたっけ、◯◯さんが好きなあの人、毎週本出してる、あの」と妻に聞いて、「中谷彰宏?」と哀れみの眼差しと共に正解を得る。ああ〜、記憶力が記憶力がオレの頭がオレの海馬がカバだカバだカバだもうだめだ・・・。

10時35分家を出る。快晴。地下鉄で北12条へ。11時過ぎ、薫風書林着。店前にじゃんくさんのクルマがすでに着いていた。息子さんの快クンも一緒。薫風の佐々木君が来る間にあたりを見学。しばらく来ないうちに様変わりした景色にちと驚く。だが、お天気の土曜日の北大前通りは心地よい。古い絵葉書の中のように人通りが少ないと来札時の石神井さんがかつて評した、この閑散とした風景がいい。ほどなく薫風君現れ、出発。

 小学4年生の快クンは任天堂ディーエスに熱中しながらも、車内でやおらサンダルにワックスをかけ始めた薫風オジサンの話相手もしてやらねばならず忙しい。高速札樽道快適。正午、小樽文学館着。じゃんくさんが副館長の玉川さんに挨拶、自分も、「この度は、ウチの<じゃんくまうす>こと太田がお世話になります」とお礼を述べたというようなことは無論なく、どうもでした〜、お久しぶり〜、と頭を下げる。

 1月に南陀楼綾繁さんをお連れした<まるた寿司中央店>に皆さんを案内する。じゃんく=上寿司、快クン=焼肉丼とコーラ、薫風=鰊定食、須賀=トロカツ定食、それに鯛のカマ焼き、と須賀・薫風でビール大壜三本。皆さんに好評をはくしたので、たいそう気分がよくなり皆さんに、「喰いねぇ、喰いねぇ、寿司喰いねぇ、エゾっ子だってねぇ、さあ、ビール飲みねぇ」と大盤振る舞いをしようかなと心が動いたのであるが、今日はあいにくサイフを忘れてきたので、それはまあ、また今度の機会にして、今日はじゃんくさんに奢ってもらったのであった。というのはもちろんウソで、サイフは持っていたが金子(カネコくんじゃないよ)は数百円しか入っていなかったので、当初から、御馳走してくれると云っていた、じゃんくさんのご厚意に甘えたのである。

 快クンによって八割方残された焼肉丼が薫風書林によって始末されることとなり、食し始める前に、「快クン、トンガラシかけてくれない?いっぱいかけていいからね。・・・ふふふ、まだまだ・・・まだまだ、そんなもんじゃ甘いよ。かかってきなさい。勝負、勝負」と薫風に煽られた快クンが振りかけた一味唐辛子で、肉も飯も識別できずに表面が真っ赤になってるシロモノの上へ、「どれどれ、ほん、こんなもんでオジサンが倒せると思ってるのかね?ははは」と自らも赤い雪のように唐辛子をドバドバと狂人の如くふり積もらせ、かき混ぜて、何が何だか正体の分からなくなった不気味な赤い固まりを薫風魔人は口に入れ始めた。一口喰らうや、「あわわわわわわわわ〜」と奇声を発し、二口喰らうや、脂汗浮かべ、三口喰らうや、涙を流しながら、「あわわわあっあっ熱〜い、わわわわっ辛〜い、わわわわ助けて〜」、とおめきながら、鼻水をすすりながらも胃袋に収めるその姿は感動的ですらあり、子供好きなオジさんであり続けるのも大変な労苦が伴うものなのだなあ〜、と自分を感嘆させたことだ。けなげに(?)「こういう大人になっちゃいけないよ」と云う(なら最初からやらなければいいのであるが)薫風に快クンは「ん」と大きく頷いていた。誰がなるかって!快クンが将来小樽を訪れた時に、「なんだったんだろうな、あのヘンな人は。バカな食べ方してたよなあ」という記憶が蘇ることだろう。

 1時半、文学館に戻り、2階の本を物色。2時から1階の講堂でじゃんくまうす太田諭氏の講演「絶版漫画について」を一番前で、薫風、快クンと聴く。お客さんは30名弱ぐらいか。遅れて岩田書店さんも来場。昨日リハーサルはしたそうであるが、原稿は作らずメモだけだというのに、昨年のゴールデンウィークに自分が同じこの場所でやった講演(?)よりも話がよくまとまっており、なめらかであり、ずっと上手であった。講演が始まると自分、話は決して退屈ではないのだが、ビールのほろ酔いのためか、やたらと眠くなり、あくびが何度も出て、じゃんくさんの人生行路の話が終わったあたりで居眠りをしてしまい、目を醒すと、漫画買い取りで詐欺に引っかかりそうになった事件、のくだりになっていた。しばらくして話は終り、漫画本の鑑定タイム。3時半、堂々の終了。2階のカフェでコーヒー。

 4時10分小樽発。帰りも天気よく、高速ドライブ快調。札幌の町並みが一気に視界に入って来ると、やはり都会であるなあ、という感慨。車中、酒の話をしていて、「あれ、焼酎みたいな、大盛りじゃなく、引き蘢りじゃなく、沖縄の酒の」とまた朝方と同じ症状に見舞われて、「アワモリですか」「そうそう泡盛泡盛」という結末に薫風書林の優越の微笑と共にたどり着き、頭が、オレの頭が濁っている、壊れてゆく、すかすかになってゆく、と脳力の衰え著しき自分をまたしても自覚し、ああ、もうだめだ、まだ何もやってないのに、と落ち込んでいるうちに、5時、薫風書林前着。じゃんくさん父子と別れる。さてそれから急に催すものあり、薫風に近所の穴場情報を聞き、無事に済ます。なるほど清潔で快適な場所なり。自分もすっかり気に入り、このあたりでの厠はここ、と忘れないように頭にメモ。

 6時過ぎ、帰宅。受注1、大岡昇平「酸素」。入浴。半年ぶりに妻に散髪してもらう。中身の軽い頭がさらに軽くなり、空に昇って行きそうだ。

 9時、ロッテー巨人、9回から見る。10回表みごとな攻撃、6−4でロッテ勝利。Gは首位転落。横浜は9回裏、美丈夫(あるお客さんが云った清原和博についての比喩。それ以来、わが家において清原のニックネームとなっている))の逆転サヨナラ満塁で7−6でオリックスに敗れ、4連敗。10時、「ブロードキャスター」。「プロジェクトX」の頃に比べて久保純子の声が低くなり、かなり変化したとの印象受ける。ジャワ島で地震マイケル・ジャクソン氏が来日中の由。強風が吹き出す。ハンバーグ、プロセスチーズ、食パンマガリン3、水割り数杯。1時半就寝。