須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

土曜 <北の湘南>を往復す

 午前6時目覚め、6時半起床。うどん、ナットウ、冷水、ミニあんパン、麦茶にて第一食。

 7時50分家を出、札幌駅発8時34分のスーパー北斗6号に乗車。客少なく快適なり。車内誌「THE JR Hokkaido」をぱらぱら。正月の帰郷時に読んだ小檜山博氏の掌編連載は終わっていた。新連載「堀淳一の風に吹かれて一人旅」、1926年生まれの筆者の文章が、とても(異常と云いたいほど)みずみずしく若々しい。

 進行方向の右側の窓から見える野原や丘陵はまだ茶色や灰色の冬の色。苫小牧を過ぎて白老辺りだろうか、これは左側の窓、線路のすぐ脇に牧場が広がっており、厩舎から出た馬たちが十数頭ぐらいか、草を食んだり、駆け回ったりしている。その中に生まれて数ヶ月と思しき子馬が交じっているのを発見して、何かうれしくなる。この世の大部分の人間の子供は苦手な自分であるが、動物の子供はたいがい好きなのである。

 10時6分、伊達紋別駅着降車。駅の柱に「北の湘南へようこそ」とか書いてあるのを見、赤面するのを覚える。なんかなぁ。ところどころ、足を止めて見学しながら徒歩でM寺へ。入口の場所が以前来た時とは違っており、境内に入ってみると、見た覚えのない建築物が二棟あり、これが立派、しかも見るからに新しくぴかぴか輝きを放っている。白亜の小さなビルディングの如き外観の一つが納骨堂で、いま一つが今日の法事をやる会館。ここは一階と二階とホールが二つあり、同時に二件の葬儀を執り行えるようになっているようだ。まだ誰も来ておらず持参の文庫「山之口貘詩文集」を読んで時間つぶす。

 11時半から父の百箇日法要。広大なホールで孫曾孫含めて16人の寒々とした集まり。お経終わって、クルマで10分ほどの墓地へ赴き、納骨。兄の話によると、今年は雪が多く四十九日にすべき納骨が今日まで延期になった由。がために、骨壺のある苫小牧の兄宅へお経をあげに頻繁に来るお坊さんへのお布施とおクルマ代が嵩んでユルくなかったそうな。母の何回忌であったかに来た時に比べ墓が増え、墓地までの途中に人家も多くなった。地球上にニンゲンの墓と名のつくものは、どれほどの数あるのだろうか。風が冷たいが、天気好し。

 またお寺に戻り、食事。仕出し屋のオードブルで発泡酒飲む。隣に座っている母方の叔父二人、昔から得意の自慢話をし合っていた。一人は最近の欧州旅行の話、もう一人は岩内に土地と借家、札幌にアパートを所有している話、今度、鳩山由紀夫が伊達に来たら意見をかましてやらねばならんという話(この辺り鳩山氏の選挙区なのだ)。そのうちの一人から、H新聞のコラム欄に時々載せてもらっている自分の文章について、「あれは好かん。もっとしっかり書け」とお叱りを受ける。1月の葬式で会った時に、今度載りますから、と調子に乗って教えていた自分がアサハカであった。多少は理解のある人間と見なしていたが、この人には二度と何も須雅屋情報は与えまいと決める。と云ってもあちらは、微塵も困らないだろうけれど。2時過ぎ終了。引き出物(?でいいのか)の他に従姉妹のお姉さんが(もう五十路であるが)、残り物をまとめて自分に持たせてくれたので、けっこうな荷物となる。兄がJR伊達紋別駅まで送ってくれた。年より10才は若く見える人であったが、さすがに白いものが目立つようになった。この数ヶ月の心労のせいかもしれない。

 駅で1時間待つ間、15分ほど仮眠。自分の他には老婦人の二人連れがいたが、何故かいきなり玉チョコ5ヶくれる。自分の周り、よほど哀れな下層社会の雰囲気が漂っていたのだろうか。15時23分の特急北斗11号で自分は自分は自分は旅立ったのであるが、帰りも自由席空いていてケッコウ。喫煙車両はすでに存在せず、愛煙家の人は大変であると、ほ〜んのすこ〜し同情。16時58分、札幌駅着。

 5時半帰宅。18時現在、晴、2・6℃。『彷書月刊』届く。南陀楼綾繁さんが連載「ぼくの書サイ徘徊録」で須雅屋を取り上げてくれたために恵贈されたのである。ありがたし。と、思いつつもまずマンガ「ブンブン堂のグレちゃん」に目を通す。

 8時半から入浴。10時、NHKで新作「楯・シールド」を語る村上龍を見る。相変わらず固そうな頭髪がふんだんに生えている。才能の他にもさまざまなモノを持っている人だなあ。もらって来た仕出し屋の料理にて第三食。元来が肉屋だったところがやっている店なので、やたら揚げ物系が多く閉口する。ちょっと食べると、自分にも妻にも小さな吹き出物が出来てしまった。一体どういう油を使っているのだ!これが<北の湘南>の仕出し屋なのである。と、不平を漏らす自分は<北の湘南>のバカ大将。

 受注二件。<楽天>からル・クレジオ「物質的恍惚」と嵩文彦詩集「父」。2時就寝。