ひと月ほど前、いきなり現れた三人組に車に乗せられ、日高の建築現場に連れて行かれた。原因に覚えもあることなので、おとなしく命じられるままに２０人ほどの仲間たちと穴堀りに従事すること一日９時間、昼飯挿んで６時まで。夜はジャガイモ洗ったような液体のフロに入り、飯場でメシ、ゴードー焼酎飲んでバタンキューの日々。朝は６時に起床、メシの後、８時からまた穴堀り、瀧のように流れる汗と泥にまみれて掘り続け、ネコ車で土砂を運ぶ毎日の繰り返し。２０日近くたったある日、前夜に取っておいた飯と朝飯とで秘かに握り飯を作り、ペットボトルに水をつめてバックにつっこみ、もう一人とタコ部屋を脱出、汗だくになって、むっとする草いきれの中、笹や蕗やイタドリやゼンマイワラビや、その他無数の名前の分からぬ樹木や草のぼうぼう生えている山道を歩いて下ること数時間、さあ、一服するかと、腰を落として休んでいたところ、何か変な生臭い匂いがするな、と感ずる間もなく、視界の端に黒い大きなモノが動くのに気づき、「わあー、熊だー」と荷物投げ出し走り出した。仲間がどうなったかも知ったものでなく、方角も何もあったものでなく、ただ夢中で走りに走り、いつか夕暮れの帯広の街に入ってると分かった時には実にほっとし、体中の力が抜けて路上にぶっ倒れるかと思われた。駅近く、かねて知り合いの古書店＜春陽堂＞さんにようよう辿り着き、汗と塩でごわごわになったボロ服から発する匂いも省みず、レジ横の椅子に座らせてもらい、出された水にアイスコーヒーがぶがぶ飲んでいると、話の合間に入口の方を見やった春陽堂さんの顔が青ざめ、凍りついたまま。見ると黒い巨大なモノが入口塞いで立っているではないか。「んぎゃー」。ヒグマが咆哮するのと同時に自分たちは叫んだ。
というのは、もちろん全部フィクションで、ただ日記書くのをサボってただけなんです。すんません。ぼちぼちとまた書いてゆきますんで、よろしくおつきあい下さいませ。
