須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

CRUSH!!

 夕方5時前起床。晴。

 洗面所にいるところへ妻が来て、パソコンが変だ、と言う。また、フリーズさせたな、しょうがねえな、と顔も洗わずに居間の食卓兼仕事机の前へ行きMacintosh PowerBookに向かうと、洋書挿絵本らしき本が映っている画面の一部で、小さな万華鏡の模様みたいなものがくるくる廻っている。画面が固まってしまった時に、ポインタの矢印が変身してなる状態だ。1時間以上も前から同じままだと言う。参考書を見て、強制終了・強制再起動の手続きをする。指を三本押し続けると(不器用ですから両手で)、ほどなくして画面が消えていく印象が、以前何度か経験している感じと何か違う、気がする。画面が青から白く変わり、すぐに黒くなって一旦消える。その直後、ジャーンという音と共に、すぐに再起動が始まる筈なのである。が、しん、として、何も起こらない。しばらく黒い画面を見つめて、じっと待っていてもパソコンは沈黙している。「これは壊れたかもしれんぞ」、と冗談に妻を脅かし、洗顔すませ、カフェ・オ・レなど飲んで、しばらく機械を休ませる。時間を空けたからといってパソコンがリフレッシュできるわけじゃないだろうが、機械音痴にはなんとなくそう思えるのである。。パワーボタンを押す。ジャーンと音が出る。いつに増して、この音が希望に満ちて聞こえる。「やった、ん、大丈夫だ」。「よかったあ」。と、夫婦喜びの声を上げて画面を眺める。白いバックにグレーの端欠けリンゴが現れ、その下で小さな歯車というか、漫画に描かれるお日様みたいなものがくるくる回り始める。回り始める。回っている。回る、回るよ、地球はメリーゴーランド。回っている。回り続ける。こちらをバカにしたように回っていやがる。この後、いつもならすぐに画面が青く変わり、アプリケーションのアイコンが現れるのであるが、歯車はいつまでも回り続けるばかりで、先の行程へ進もうとしない。「もうだめだ、これ」と吐き捨てるように言うと、途端に妻の顔色が暗くなる。それでも、ボタンを押し続けて終了させ、またボタン押し、何度か起動させようと試みるが、何度やっても同じ。ジャーン、りんご、くるくる。くるくるがくるくる永遠に回り続ける。くるくる、くるくる、くるくる、仕舞には、自分の頭の中でもくるくる、くるくる、くるくる、くるくる、........................................
 パソコンを消して途方に暮れた。「アップルに電話してみたら」、と奨める妻に、「それは最後」と答えるが、どうしたものか、対策が瞬時には思い浮かばぬ。「じゃんくさん訊いてみたら」、「S下さんに訊いてみたら」と妻はまくしたてるが、どれも即効性がありそうには思えない。埒があかぬとみてとったのか、妻は<R平岸>さんに電話して修理店を訊ねている。修理にしろ、新たに買うにしろ、結局最後に行きつくところは金なのであって、金があればPCが壊れようがもう少しは悠然としていられるのだが、ぶっちゃけた話、その金がないので、まったくもって困ってしまうのである。パニクるのである。妻は「ね、Fさんに電話してみたら」と言う。その名前はまず第一に頭に浮かんでいたのであるが、迷惑をかけてはいけないという気持が少なからずあって躊躇していたのである。が、あれこれ迷っていられる時ではない。このパソコンは昨年12月にF・A 氏から貰ったものなのであって、なんといってもF・A 氏が精通している筈なのだから。
 電話をして名乗ると「どうしました?」と訊くF・A 氏に、くるくるが、いつまでもくるくる回って、いくら待っても、ずっーとそのままで起動しない旨伝えると、「診てみますから、明日もう一度連絡の上来て下さい」との返事。まずは、一歩進んだ。が、その先はどうなるのか皆目わからない。修理に出すとなるといくらかかるのか、中古で買うといくらになるのか。ああ、短いパソコンとの付き合いであったなぁ。あまりに早いネット販売の崩壊ではあったなぁ。また昔のようにワープロで自家目録作成して配ったにしても、財津一郎いうところの、ムナシーッ!売上に終わるのは、目に見えてるしな。そうなると行き着くところは、またバイトで肉体労働か、あーあ、去年の8月みたく土方でデメン取りに出るのは辛いなあ、もうこの歳では。また、毎朝5時半起きで、土場(と呼ばれる集合場所)に通わなきゃならんとはユーウツになるなぁ.....................などと、とめどなく暗い近未来の自画像が自分の想念に去来してやまない。

 パソコンが駄目になると古本の仕事はできず、もうしょうがないのであって、ラジオでナイター聞きながらワープロで日記の下書きなどを書いて時間をつぶす。やはりPCが使えないと不便である。古本屋通販生活が成り立たないじゃないのさ。このままパソコンが復旧しないとマズイことになる。ああ、なんたることであろうか。いつしか、もうパソコンなしでは二進も三進も行かない身体になっていたらしいのだ、この自分でさえも。

 と、慨嘆しているその時、「わあぁー!」というバカでかい声が洗面所方面から聞こえ、すわ、何事、と駆けつけると(って蟹の横歩きで5歩なんであるが)、脱衣場兼洗面場兼洗濯機置き場の床が一面水だらけになっている、その水たまりの濡れ場に妻が立ち尽くしているではないか。「こんな日もあるのね。悪いことばっかり重なって」と力なく呟く妻に、「どうしたのじゃ、これは」、と問い糾すと、洗濯を始めようとホースで水を入れていたところちょっと目を離した隙に、洗濯機の底から水がどっと漏れ出し、かかる凄惨な状態になった、と言う。自分は今日二度目の動顛の中に放り込まれて、またしても無からの対応を考えねばならなくなった。この阿媽め、ああ、洗濯機まで新しく買わにゃならんのか、もう20年も使用してるからなぁ、だめだ、もう、何もかも絶望だ。何枚もの雑巾を使用して跡始末する妻を眺めながら、手を出しかねている自分に、ひゅるるるるるるるるるるるるるる、と自分たちが何処までも深くて暗い奈落の底へ落下してゆく音が聞こえる。しばらくして拭き終わった妻が、再度水を洗濯槽に流し込む。ほどなく水は満杯になり、しゃがみ込んでそのままじっと底の下を覗いて観察してみるが、別段これといって水が漏れている気配はない。再度確かめてみると、水が底から漏れ出しているのを直接目撃したわけではなく、思い切り蛇口を開けて、場所を離れ、戻ってみると、洪水状態が現出していたというのだから、どういうやり方をしたのかは分からぬが、洗濯機に対するいい加減な態度が原因で、機械が癇癪を起こしたのだろう、たぶん。相変わらず、人騒がせな女だ。まあ、取りあえず洗濯機問題は一応の解決をみ、自分は、やれやれ助かった、と、ほっと胸を撫でおろし、風呂に入った。

 入浴後、牛のステーキ用を電気魚焼き器で調理したものをメインに食事。昨日、閉店近くのセールで7割引で売っておったものであると言うが、じつに久方ぶりの牛肉であるというのに、妻はパソコンのことが心配で味もよく分からず、飯も喉を通らなかった、と心持ち赤くなった目をこちらへ向けて言う。明日からの我らが行末は、それはヤツガレとしても大変に不安なのではあるが、妻が残したお肉も美味しく戴き、お酒もおいしく戴きながら、アルバイトはヤだなあ、土方は苦しいなあ、と自分は思い続けていた。

 茨城県でトリインフルエンザ発生。大量のニワトリさんたちが処分された。日ハム4×西武2、ダルビッシュが松坂に投げ勝ち2勝目。柔道の谷亮子選手、記者会見開き懐妊を発表。たいがいの関西地区のプロ野球スター選手というのは、地元優良中小企業社主の奇麗なお嬢さんと結婚するのが一つのパターンであったと記憶しているのであるが、オリックス谷佳知選手は(三角締めとかに押さえ込まれ、逃れられなかったのかもしれぬが)ユニークな道を選択した。須賀家において彼は<生け贄>または<人柱>と呼ばれている。

 3時半就寝。