須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

日曜 理想の部屋

 8時半起床。ソバ、ナットウ、冷水、餡饅2、牛乳、カフェオレ、紅茶にて第一食。6時現在、晴、18・7℃(最高気温22・4℃)、湿度62%。
 10時15分出。天気好く気持よし。10時集合なので徒歩はやめて家の近くでタクシー拾う。メジャーな(?)<平岸タクシー>なので当然なのであるが、8月末に某駅から乗ったタクシ−に入っていなかったナビが設置されている。中央区と豊平区の境あたりの川が流れる近くの公園の某宅へ。タクシー代760円。2階へ上がると●●屋さんがもうすでに棚の本の半分を紐で結わえ終えていた。自分も残りを本の大きさを揃えて縛ってゆく。ほとんど美術書と詩集などの文学書。洋書の画集も多い。シュルレアリスムカンディンスキー、クレーなど抽象、前衛系。本は、手にする本すべてが随分とキレイで、それに掃除が行き届いているせいか天小口にもホコリがない。ご主人は画家で某所で教鞭もとっておられたお方。某所図書館へ蔵書を収めようと連絡してあったが、いつになっても受け取りにも見にも来ないので業を煮やして遺族が古本屋へ声をかけたという次第。本も良質なものだが13、4坪(?)のその書斎兼アトリエが素晴らしい。自分にとっては理想の空間というか、ずっといたい場所、住みたい部屋だ。広めの窓三つには今日の青空が大きく広がり、下を眺めれば庭の草木も見え、いい風もカーテン揺らして入って来る。手洗い場や電熱器、トイレもあるので、一度部屋に入ったら1階に降りることもなく集中できそうだ。広くて重量感のあるデスクの側に藤の応接セットもあり、照明もいろいろ工夫されているようで、ふだん自分が古本の仕事をしたり、駄文を弄したりしている場所が如何に劣悪な環境にあるかが分かる。ご主人が未使用のまま遺した原稿用紙を頂戴する。17冊。中に憧れの<満寿屋>のもあり、原稿用紙を使うことは今ではほとんどないのだがとても嬉しい。一服の後、赤帽さんが来たところで一階に荷物を降ろし(半分ほどは自分が本を縛っている間に●●屋さんが降ろしていたのだが)、●●屋第三倉庫へ。豊平区役所から美園へ流れる道路中央に真っ赤なりんごが実って鈴なりに。札幌に住んで初めて見た。オドロキ。荷物おろした時点でバイト代3千円戴く。今日運んだもの、●●屋さんが先に持って来ていたものなどを紐をほぐしたり、ダンボール箱から取り出してざっと見て調査。思っていた以上に珍しいものがあるのを発見。10月に開催される大市に来場する筈の『ボン書店の幻』の著者が興味を持ちそうなものもちらほらとある。やはり戦前から本を買っていた人の蔵書でないとこうはいかない。そこが8月末以来何度か通ったお宅の本とは質の違うところ。「あ!これ、◯◯◯さん向きだよ」「これは◯◯さん買うよ、きっと」「これとこれで最低5千円にはなるっしょ」などとコメントしながら大市の入札用目録に掲載する品物を物色、チョイスするのを手伝う。作業しながら●●屋さんの正直一筋、徹底した誠実ぶりをあらためて再認識。本当云うと、もっとご自分が儲けられるように工夫しないと、頭をちょっと捻らないとダメだよと忠告したいのだが、長年見て来てこのスタイルがこの人の本然であると分かっているのだから仕様がない。肉体労働の手間と時間ばかりがかかって本人への見返りは微々たるものでも不満を持たない仏さんのような●●屋さんに数ある古本屋の中から声をかけた、選択したお客さんはまったく幸運である。その僥倖をお客さんは分からないままに事が進んで、当面の生活には心配のないリッチなお客さんがよりリッチになり、この度店舗家賃の値上げを通告され何かと今後もたいへんそうな●●屋さんはほとんどボランティア活動同様で終わるというのが、他人が口を挿むべきではないと承知していながらもちょっと自分には何かしっくりこない、歯がゆいのだ。しかし今年春先に、同一ビル同フロアーで大家さんの都合により動かざるを得なかった●●屋さんの引っ越しを手伝っていた時に、その関西方面(?)から来たという新しい大家さんだか支配人だかをちらっと見る機会があったのだが、その時、自分がかつて店舗を出していた某マンション1Fの大家さんと何処かしら同じ、どろ〜んとしていながらも抜け目なくシビアーそうな印象を受けたのだけれども、家賃大幅値上げの話を聞いて、やはりな、と思ったことである。
 15時前徒歩で帰宅。15時現在、曇り、21・5℃、湿度70%。シャワー。おにぎり2、ロールパン1、焼芋かけら、冷水、カフェオレ、紅茶。ふと、歯磨きの最中に脈絡もなく思いだす。記憶に間違いがなければ、今日の某さんの蔵書にシュルレアリスム関係の内外の画集や研究書がたくさんあったのにダリが一冊もなかったことと、その簡素で機能的なアトリエの中の風景を。きっとダリが嫌いだったのだろうなと思う。19時から1時間仮眠。20時からテレビ。「風林火山」。ドラマ「ひまわり」(夏目雅子ストーリー。最後に流れた本人の映像が一番光っていた。だからこそ最後にしか本物は出さなかったのだろうけど)とETV特集:(老人の星78歳)中村富十郎を交互に見た後、柔道世界選手権をちょっと。昨日蘭越の土捨て場で発見された死体の女性と頭部に重症を負って泣き叫んでいた少女の母娘は札幌平岸3条のアパートに住んでいたらしい。ご近所である。受注2、辻井喬「詩集鳥・虫・魚の目に泪」、松村英一「歌集露原」。第一書庫で本探し。2時、焼鳥、葱焼き、ポテトフライ、スープギョウザ、プロセスチーズ、せんべい、日本酒1、ウィスキー水割り3、麦茶。5時過ぎ就寝。