須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

水曜 秘密クラブ復活か?

 午前7時15分起床。ロールパン1、昨日のクロワッサン3、ミニあんパン2、ヨーグルト、カフェオレ、麦茶。8時15分過ぎ出。

 地下鉄で大通。9時前に頓宮神社着。本日は札幌古書組合月例交換会なり。例により事業部員は早くも皆集合して働いている。事業部員でない薫風書林君、游書館君、書肆吉成君、なちぐろ堂大西夫人、それに理事のセカンズさんも。薫風佐々木君は今日は体調がいいので、つい早めに来てしまったと云う。どうしてどうして、こういう点はなかなか立派であると申すべきだろう。これがスガであったなら家でまだ高イビキである。

 小樽の店仕舞したHさんの口がまた大量に出る。かれこれ一年以上も続いている。赤帽さんが倉庫からそのまま運んで来たダンボール箱から本を出して適当な冊数で縛り、重ねて山を作って行く。けっこうホコリ被ったものが多く、手がすぐにバッチクなる。古道具が主な店だったので、一旦倉庫に入った本は何年も何十年も放置したままだったようだ。それにしても一年以上出品が続いてまだ残りがあるとは、よほど広い倉庫を持っているとお見受けする。誠文堂十銭文庫が十冊ばかり入った山と三橋一夫「腹話術師」と龍膽寺雄の本が紛れている口を買う。昭和30年代の短歌雑誌が混ざっている山も欲しいところであるが、なにせ量が多すぎて、家に入りそうもない。11時第一回開札。いつもように発声係をやる。最終台にセリ案内にも紹介されていた夢二コレクション約100点。新しい本が中心で、大正期の本は5冊ほど、古いモノはほとんどなかった。同じく最終台、渡辺淳一の識語入色紙は買いたい人がいなくてボー。12時終了。後片付け、掃除。自分が落札した山のウチ、不要な本をなちぐろ君に押し付ける。

 最近開業したばかりのO君がSさんと話しているのを小耳に挟む。「今日ハローワークに行く日なので」みたいなことをO君が云うのを聞いて、『ええっ!?もう古本の方は行き詰まって職探しをしてるのか』と思い、暗然とする(ほんのチョットですが)。手伝いに来ているO夫人(って書くと「O嬢の物語」とか連想しちゃうのは自分だけ?そう云えばクライストにも「O侯爵夫人」とかなかったべか)と一緒になる時間があり、「ボクは力がないので何もしてやることはできないんだけど」と前置きしてから「ダンナさん職安に行ってるの?」とアルバイト経験者として訊いてみたら、ハローワーク行きは職探しでなく失業保険を貰いに行くためとの事実が判明する。オッチョコチョイの自分の早とちりであったのだ。あははは。でもよかった。ホッとする。古本以外のアルバイトは心身ともにツライからのお。

 恊治君のクルマに同乗、1時半帰宅。12時現在、晴、2・4℃、湿度45%、予想最高気温3℃。ダンボール1ヶをスーパーのポリ袋5つに詰め替え屋内へ入れて後、床掃除、3時近くなってやっと一服。牛乳。

 帰宅後調べてみたところでは、三橋一夫「腹話術師」はカバ帯付で完本、今日入手したのは裸本でかなりヨゴレもあり、値段もほとんど付けれない。くすん。失敗なり。が、龍膽寺雄の仙花紙本の方は見かけぬもの、けっこう珍しいと思われるので、ヨシとしよう。

 岸田今日子が17日に亡くなっていた。脳腫瘍の心不全。76歳。そして青島幸男が今日亡くなっていた。血液の病気とか。74歳。青島について「数限りない宴会に出席させて頂いた、・・・・・無責任で調子のいい時代を作った」という小松政夫のコメントには笑ってしまった。スゴく頭のいい人なのかも、とY。

 日記。5時、うどん、ナットウ、胡麻食パントースト、冷水。受注3件、川崎洋詩集「祝婚8歌」、「白秋全集19/フレップ・トリップ」、「書碑拾遺 金石稔詩集1967〜1977 」。8時台、亀田興毅ランダエタ戦と「ためしてガッテン」を交互に見る。10時、入浴。11時半、ザンギ、マグロのヅケ、ゆでモヤシ、カジカ汁、Yに買うて来させた燗酒二合、麦茶。

 その昔、古書業界の天皇と称された弘文荘反町茂雄が主宰する「文車(ふぐるま)の会」という全国の「選ばれし」エリート古本屋さんたちによる勉強と研鑽と親睦を兼ねたゴージャスな会があって、日本国内はもちろん、米国や欧州へも研修旅行に行ったりしていた。札幌でも数人の有力な店(ばかりではなかったけれど)が加盟していたものだ。これに対抗して20年前、我々、薫風書林須雅屋は「古熊(ふるぐま)の会」という会を秘かに結成した。数年後、宴席でけやき書店や太秦文庫と語らううち、東京の若手古本屋の間には「荷車の会」や「火車の会」があると聞いたのであるが、あちらは知らず、こちらの「古熊の会」の主旨と活動内容はこうである。プロレタリア古本屋たる会員二人が、全国の古書目録を収集し、協力して相場は元より、札幌の新規古本屋の開店日など、古本界のさまざまな情報を逸早く入手、札幌は云うに及ばず、あらゆる地方のセリや店や古本市にゲリラの如くに出没をし続け、自店向きの本を買いまくり、集めまくり、店を充実させて行けば、やがては、自ずと功大を成すに至る、という今から思えばドリーミーかつ甚だいい加減なモンであった。モットーは、少ないチャンスを大きく活かす。云わば古本ゲリラの会である。が、本を集めるばかりに重きを置き過ぎて、売る方には熱情が注がれず、薫風は兎も角、須雅屋の方はいつまで経っても商いがふるわず、やがて会自体も衰徴、自然に消滅していったのだった。その「古熊の会」が此の度、久方ぶりに復活したのである。ああ、持つべきものは良き友かな。それで嬉しくなってしまい、飲む予定のなかった酒を今日も飲んでしまったという訳。が、今日の友が明日は憎っくき敵。それがキビシイ古本界の掟。なんてたいそうなモンではなく、単に自分の都合によって味方にしたり敵に見立てたりしているのである。

 午前5時就寝。