須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

金曜 酒も煙草も

 午前6時前目覚め。7時40分起床。夢。数十年会っていない中学時代のクラスメート荒川さん(女性)と、高校以後の友人の松井君と現実では一度しか会ったことのないその兄さんと、お世話になっている古本のお客さんT畑さんが夢で共演。ベーコン・トーストサンド、牛乳、紅茶で第一食。
 8時50分家を出る。地下鉄でJR札幌駅へ。今日はけっこう暖か。往復券1240円を購入し9時半のスカイライナーで小樽へ。
 10時20分、小樽文学館着。「大古本市はこの部屋」とポップに案内されて会場へ入る。一昨年に講演で来た時に開催されていた廊下ではなく横の研修室。予想外の人の多さに驚く。50人はいるか。古本屋さんがそれぞれ連れと共に二人。◯◯書◯とそのお客さんの札幌T高校先生、それに◯◯◯書房ご夫婦。それから見知った顔のお客さんも二人。古本屋が二人もいて、開店から20分も経っていてはもうダメだ、メボしいものはねえべさ、と観念する。◯◯書◯、ふだんは午後から開店の男がこういう時には素早いのだから油断がならない。いつまでたってもオレは甘いと反省。ヴァルテル「ジュリアス・シーザー」、ウェイゴールアレキサンダー大王」は余り見ない角川文庫。「川崎長太郎「地下水」(帯欠)、メグレ・シリーズ、他、2430円買う。千円の予算で来たが、利幅薄くても数をこなして、せめて交通費を稼がねばという計算と、他の古本屋が傍にいるのとで、つい余計に買ってしまう。隣りの部屋で岩田書店と夢書房のお二人さんも場所借りて古本市。こちらは、閑散、ぱーっ、と一周して出る。見回せばいつの間にか、二組の古本屋さんたちは姿を消していた。
 人徳なく、「帰るならクルマに乗って行きません?」とも「それじゃ、お先に」とも声をかけられなかった自分は一人二階へと上がり、美術館と文学館を見学。現在展示中の並木凡平展と、1月の南陀楼氏との来館時には駆け足で廻っただけのの常設展をゆっくりと見る。凡平の歌に感銘。今時の軽くて爽やかな作風の歌人たちよりも自分には断然面白い。凡平さんの詠いぶりも明るく軽いのだけれども軽さの質が違う。記者失業中に「凡平コップ」と銘打って製造販売していた由の自作歌入りのコップやリキュール・グラス、猪口などの酒器も展示されていて愉快。数年前に一度須雅屋の商品として売ってしまった全歌集をいずれ何処かで自家用に入手しようと思う。「廃船のマストにけふも浜がらす鳴いて日暮れる張碓の浜」が有名だが、酒や貧乏を詠んだものにいいのがたくさんあるようだ。小林多喜二のコーナーでデスマスクを見た中年観光客の一団が「たしかゴーモンされたんだよなあ、この人」とか解説(?)しながらハシャイでいる。カフェでコーヒー二杯。副館長玉川さんに挨拶して辞す。帰る前にもう一度岩田・夢書房コーナーに入り、いやあ、ヒマそうですね〜、それじゃあ、またぁ、とご両人に声をかけてねぎらい(?)、中村善策記念ホールを見てから館を出る。
 3時38分のライナーで札幌へ戻り(この電車の広い窓から見る日本海はいい)、南平岸Maxvalu>で、もやし2、酒「温情」2Lパック計836円を買って帰宅。4時となる。新聞受けに兄からの速達あり。15時現在、くもり、15・2℃、湿度48%、明日朝予想最低気温6℃。
 6時、カップ麺、ナットウ、米飯、冷水。日記。8時半、日米野球を8回裏から見る。3−2でMLB選抜。米は春のWBCの雪辱を期している。日本側の選手全員にそれほどの真剣さがありや。10時過ぎまで1時間仮眠。
 中川一郎の息子と吉田健一(はイイんだけれど)の甥っ子は今のご時勢と現体制であれば失脚することはないという計算のもとに喋っているからイヤラシイ。それだけに控えようなどは今後もしないだろう。表向きは言論の自由云々を謳いながら、反対の立場の言動が封じられる時代を彼らは十分に意識しながら用意しつつある(すみませんねぇ、古本屋風情が)。

 なんでも、全米福音派協会のテッド・ハガード理事長が2日、突然辞任した由で、同理事長には同性愛の疑惑が浮上しているのだそうな。はちゃー。これはエライこっちゃ。唐沢さんが取り上げそうな恰好のネタではあるまいか。ブッシュ政権にも影響ありや。以下、Yの話。その宗派(福音派=再臨派)の家に生まれ育った人が同性愛になるのと、生来そういう性向の人が生まれた家がそういう宗派であるのと。前者もけっこう大変かもしれないが、後者はホント苦痛だろう。
 そう云えば小川国夫の初期作品にたしか「再臨派」という短篇があった。『生のさ中』にか『海からの光』に入っていた作品だと思う。主人公の少年浩(?)がそういう宗派の集まりで、ウチの宗派以外の人間はこんな目に遭います、みたいに恐ろしい終末地獄繪図を見せられるという内容だったと記憶している。読んだ時は、何が何だかわからぬ、短い話という印象だったが、相変わらず耶蘇教には疎けれど今なら、ふむふむ、という感じだろう。(この段落はすべてウロ覚え)。
 零時、ホッケ飯鮨、鮪刺身、焼秋刀魚、大根おろし大量、茹でもやし、酒四合弱。文学館でもらった市立小樽図書館のPRパンフ『しらかば』で渡辺真吾という方の連載「新聞記事万華鏡(14)/白瀬中尉の南極探検(1)」を読む。綱淵謙錠『極 白瀬中尉南極探険記』に書かれているらしいが、白瀬中尉は12歳から探検家たらんと志し、「そのため生涯にわたり、酒や煙草はもちろん、お茶もお湯も飲まず、冬でも火にあたらなかったというから、すでに尋常ではない。」だそうだ。うーん。偉人は出来が違うというか、一種の狂人でなければ冒険史に残る偉業は達成できないと見た。凡人としてこれからも酒を飲んで過ごして行こう、とあらためて自分は思うのであった。
 午前4時半就寝。