須雅屋の古本暗黒世界

札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます。

水曜 何かお探しですか?

 午前7時起床。ワープロ。テレビ。トースト2、ロールパン1、チョコレート、カフェオレ、紅茶、冷水。
 9時半出。地下鉄で大通。<リーブルなにわ>で「詩学」「序文」など雑誌立読み。清水さんの選評はさすがに鋭く的を射ている。たしかに自分という奴、詩も人生も調子よく上っ面で流しているところがある。10時15分、頓宮神社着。札幌古書組合月例交換会。北天堂jr.の孝臣君と会場係の引き継ぎ(というほどのものでもないが一応)。あとは、今月からはフリーな立場となったのでお茶飲んで薫風書林と談笑、会場をぷらぷら。
 と、萌黄さんから北尾トロ「ぶらぶらヂンヂン古書の旅」(風塵社 /2007年6月30日初版ってあと10日後ではないか)、「奇想ヤフオク学」(平安工房)の二冊が巡回してきた。ありがたく拝借する。3月末に亜本屋さんで「持ってていいぞ」と云われて貰って来た新刊雑誌『アフルンパル通信』を亜本屋さんにお返しする。雑誌発行人書誌吉成君の許可なしではやはりマズイのではないかと思いなおし。入札中、向かいにいらした北天堂さんが熱心なファイターズ・ファンであるのが判明。今シーズンはすでに十数度も札幌ドームで観戦している由。優雅だなあ、と羨む気持が顔に出たらしく、今度一緒に行こうと誘われる。道古書連の会議があるようで旭川緑風堂さん、昨年9月以来に顔を会わせる釧路春耕堂さんなど地方の人も来ている。
 第二回開札の薄田泣菫の「草木虫魚」の天鵞絨装が綺麗で気に入り、一緒に縛られて出品されている島木健作の本7冊のうち半分は所持しているのだが、ついふらふらと入札。最終台に出ている池田満寿夫署名本6冊にも入札。同じく最終台の澁澤龍彦署名本2冊と鷲巣繁男宛澁澤龍彦自筆ハガキは高くなりそうなので遠慮。ハガキは暑中見舞い、短いけれどいい文面。その筆跡見てると涙が出そうになる。島木は落札。池田はそこそこの数字入れたつもりであったが惜敗。セリ終了後、ダブりでジミーな島木の口は最初からやめて、カッコいい池田と華やかな澁澤に集中すべきではなかったのかと、後悔の念がじわじわ。が、後の祭り。チャンスには前髪しかないって分かっている筈なのにその前髪を毎度掴みそこねてきた自分である。
 そう云えば、池田満寿夫さんには直にサインを貰ったことがあるのを思い出した。渋谷のパルコで開かれた展覧会の初日のサイン会に行ってローマ字の署名を頂いたのである。本は「エーゲ海に捧ぐ」でこの本が刊行されてまもない77年の何月かだった。野生時代新人賞の帯のついた本はまだ芥川賞受賞(ダブル受賞する)には至っていなかった筈。鮮明に覚えているのはジーパン上下姿の池田さんのちょっと恥ずかしそうな笑顔と(小川国夫さんもエッセイで書かれ、加藤周一さんも鼎談か何かで語られていたと記憶するが、ホント「ナイスガイ」って感じなのである)、数年後に食費に困ってこの本ほか数冊を中央線◯◯◯駅界隈のA古書店に売りに行ったこと。中年の店員さんが(いつもいる番頭さんは不在だった)、迷惑そうに本をちらっと見たあと、値段を踏みもせずに自分に突っ返し、昔の学生には個性があったもんだけどねぇ、最近の若者は流行りの本ばかり追って読書に筋が通ってないよ、こんなのは要らないね、と冷ややかに追い払われ、なんで本を売りに来て説教されなきゃなんないんだ?とひどく暗く屈辱的な気持で今度は恐る恐る近所のB店へ持ち込んだところ、おカミサンと思しき女性がケッコウな値段で買ってくれ露命を繋げたのである。A店は人文系本の在庫豊富で品揃えがよろしく、自分の好みの本が多くて、なんといっても◯◯◯地区では一等好きな古本屋であっただけにショックで、それからしばらくは足が向かなかった。若年のその当時でも、あの店員さんはあの日何か面白くないことがあって虫の居所が悪かったのだろう、とあえて推測しようとはしたが、思い出すたび眠れない夜が訪れ寝床で、バカヤロー!クタバリヤガレ!と叫んだものである。
 会計時に偶然隣合わせた◇◇さんの財布の中、万札が押し蔵饅頭をしているのが目に入る。自分は現金なく延べ勘にして貰って金券切る。同世代。20年近く前に北18条<おしどり>で、「セリで薫風さんの買いっぷり見てると、ボクももっと買わないと、ってその時は思うんですけど、いざ次になるとダメなんですよね」と酒を飲みながらを自信なげに話すのを聞いたこともあったもんだがなあ。K君のクルマに同乗。テレビ塔下のオーロラタウン紀伊國屋>で『詩学』買う。クルマ待たせているので、今日は<小鳥の広場>のインコさんたちはゆっくり見られないのが残念。車中、K君から××さん閉店のことを聞き(入口ドアに◯◯◯◯の貼紙がしてある由)、ありそうなこととはいえど、ちと驚く。やはり大きく広げて無難に経営して行くって大変なんだなと痛感。3年前の入会時に一度だけセリに姿を現したが、一体なんのために古書組合に入ってきたのだろう。本人にとってはまったく意味がなかったのではなかろうか。1時過ぎ帰宅。12時現在、晴、23・7℃、15時現在、晴、24・3℃(最高気温25・3℃)。
 ロールパン2、紅茶。5時あたりから涼風。7時半分から机上に頭突っ伏して仮眠。8時から寝室へ移動して11時半まで本眠。広島1−7日本ハムでハムは3連勝。小池のサヨナラHRで横浜4−3ソフトバンク。横浜は3連勝五割復帰。牛肉とブナピーのカレーライス、目玉焼、冷水、牛乳、チョコレート。入浴ほぼ2時間。

 今日お借りした北尾トロ「ぶらぶらヂンヂン古書の旅」の札幌・小樽篇を読む。アテなく欲なく全国を古本旅して廻った紀行エッセイ。掲載写真には北尾トロさんと並んで納まるさっぽろ萌黄書店さんの温顔が。たまたま入店した中央区の某店のくだり、「何かお探しですか?」と声をかけてきてからは話がもうどうにも止らない店主の姿、その光景が彷彿として思わず笑ってしまう。実によくその話しっぷりの特徴が捉えられており、うん、うん、と頷いてしまう。この部分を肴に薫風書林と三時間は酒が飲めると思うぐらいだ。いつかは纏められるかもしれないアンソロジー「札幌古書店グラフィティ」(仮題)に収録されるべき一文であると思う(そんな計画聞いてないけどね)。なづな書館がなづな書院、薫風書林が薫風書店、などと些細な勘違いはあるが(ソルボンヌK子さんのように薫風堂と云うよりははるかにましだけど)、基本的にこの人の文章はほんと気持がいいから、まあいいでしょう、と思ってしまう。人格の為せる業か。洗濯機の調子が悪化している。憂鬱になるが回りでおろおろすることしかできない。断酒。日記。